第58章 魔王と捕らわれ姫と裏切りとそして守る者
「なんで俺が裏切り者だと分かった?」
ゆっくりと壊れた入り口から男が入ってくる。
眼帯に黒い髪を束ねた男、岩中の舎弟頭の花村だ。
「岩中の組長の打たれる前にお前との通話履歴があった。それに、宗次郎が命を狙われてると聞いてピンときた。宗次郎が若頭になったのを一番反対していたのは誰か……つまり、お前だ。」
銃口がしっかりと花村をとらえている。
「さすが、白川だな。だが――。」
カチャリ――
「お前もこの娘が弱味なのは分かっている。」
花村の手にある銃口があたしの頭に触れた。
「下らん、そんな脅しが俺に通用すると思うか?無駄な感情などとっくに捨てた。」
白川は鼻で笑うと引き金に手をかけた。
銃口はいまだ花村をとらえている。
「そのポーカーフェイスがいつまで続くかな?」
花村が笑っている。
あたしは彼等を見れずにいた。
ただひたすら目を閉じて涙を流している。
やっぱりあたしは足手まといだ。
何に関してもそれは変わらない。
でもやっぱり死にたくない。
ズルいって言われるかも知れないけど、
愛する彼の前で命を落とす事ほど悔しいものはない。
"普通の恋愛がしたい。"
一瞬でもそう願った結果がこれだ。
恵まれ過ぎているあたしが、欲を持ったからいけないんだ。
これは罰。
あたしはそれを快く受け止めよう。
天から死への階段が自分を導くかの如く、外から太陽の光が差していた。
「江田…俺の命などくれてやる。その代わりその子を解放しろ。」
誰かが口を開いた。
あたしは目をあける。
すると目の前に宗次郎さんがゆっくりと近づいて来ていた。