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レッテル 1

第58章 魔王と捕らわれ姫と裏切りとそして守る者



「は……花村の…おじきが…裏切り者……とかワシは信じへんッ!!」

フラフラの足に鞭を打つように必死に立たせながら加藤が叫んだ。
目の前の男は確かに言った。

"舎弟頭の花村はとっくの昔に此方に落ちている"

と。
加藤は滝田の言葉を信じれずにいた。
まさか西條会…いや、組の身内に裏切り者がでるはずがない。
ましてや、その裏切り者となると童次郎の命を狙ったのは確実。
だが、全てのつじつまが合う。

自分を刑務所に入れて宗次郎と接触させないようにしたこと。
坂下に親父を狙わせた事。
急に都合よく花村の車が爆発したこと。

しかし、なぜ花村が組を裏切る必要があるのか。

それだけが、彼の中に蟠(わだかま)りとして重くのしかかる。

「そんなん、俺の知ったことじゃない。俺等の目的はただ一つ。西條会の破滅…ただそれだけだ。」

銃口が加藤に向いた。

「……っ――。」

「兄貴……すんません。」

何人かの岩中組の構成員達が加藤に銃口を向けている。
他の者は皆気絶している。

"四面楚歌"

その言葉が、今の状況によく似合う。

立ち向かう武器も無い。
体力もそこをつきかかっている。
今残っているのは、僅かなる希望と組への忠誠心。

――あぁ、駒犬は番犬になれんまんま死ぬんか。

彼は死期を悟った。
目を閉じてその時を待つ。

――死ぬんやったら一発抜いときゃよかったわ。あん時、嬢ちゃんと最後までヤるべきやったわ。若いおなごとヤれる機会はめったにあらへんからな。……ろくに恋もしてへんし、ワシの女は営業の風俗嬢かいな……ホンマわらけるでワシ。

空を見上げながら笑った。

――でも、ここで死ぬんは納得いかんな。ワシ、まだ23やで?まだまだ若いやん。んで、裏切られて死ぬんは納得いかんわ。

足元に落ちていたドスを拾った。

――そうや、ワシここで死なんのや。死ぬときはやっぱりベッドやな。で、可愛い嫁はんに看取られて死にたいわ。

ギラリと光る瞳を滝田に向けた。

「……なんだコイツ……。」

加藤の気迫に滝田は引き金を引けずにいた。
後ろの者もまた然り。
彼らは見たのだ。
加藤の背の般若が彼の身体を取り込んでいくのを。




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