第6章 思い出
「それから、秋本さんが総長になり、極使天馬に恐怖を抱いた岩中興業からみか締めの話はなくなった。けれど、最近奴らのトップが代わりました。そいつがタチが悪い奴でして…。」
彼はそこまで言うと下唇を噛んだ。
「また、俺等にみか締め料を要求してきた。けど、幹部の藤崎さんが、総長には言うなって言って…。俺がなんとかするからって。」
「どうして?」
あたしは不思議に思って尋ねた。
「総長は人一倍仲間を大事にする人なんです。だから…きっと知ったら一人で乗り込んでいく。そう藤崎さんは思ったんだと思います。」
"仲間やお前を守りてぇよ。"
それを聞いて、あたしは彼の家で言っていた事を思い出した。
たしかに、彼はそういう人だ。
「けど、俺等したっぱは、奴等になめられるのが気にくわなくて無断で奴等の所に乗り込みました。けれど、俺等したっぱじゃどうにもならなかった。そんな時、総長が来たんです。」
彼はうつむいた。
「総長は強かった。次々と奴等のを薙ぎ倒していったんス。そして、最後の1人、トップの松下だけになった。」
「しかし、やつはさっき言った通りタチの悪い奴でして、自分が敵わないと思ったのかドスを取り出した。けれど、総長は怯むことなく立ち向かった。」
「どうして…撃たれたんですか。」
「ここからが問題なんです。松下はドスを捨て、拳銃を出してきた。そして、銃口を向けた。……近くに倒れていた俺に。」
「………。」
あたしはゴクリと息を飲んだ。
「ヤツは、自分に手を出したらコイツを殺すと言った。だから総長は手を出せなかった。総長は手を出せずに殴られていた。」
彼は悔しそうに拳を握った。
「そして、ヤツは倒れた総長に拳銃を向けた。…と思った。けどその銃口は俺の方を向いた。俺はもう駄目だ。そう思い目を閉じました。しかし、拳銃の音がしても痛みはなかった。」
「もしかして…。」
「総長が俺を覆い被さるようにかばっていました。そして、総長はそのまま奴を倒した……血だらけで、"俺の仲間に手を出したら殺してやる"って。そして、総長は倒れました。」