第1章 2人の距離
そりゃあねー。
あんなの見ちゃったら少しは動揺するわけで。
今日はなんだかそんな飲み方になってしまう。
とは言えるはずもなく。
黙っていると隣に座り、どうした?と聞かれたので、なによ。と返した。
そのやりとりを見ていた一緒に飲んでた他スタッフは気を使ってかその場を離れて他のグループに混ざる
俺と2人きりになった途端、珍しいじゃん。と言い出すので再度、なによ。と返した。
「まぁ、確かに。あれはがっつき過ぎだったよな」
何を言っているのか理解して、あー。そうね。と言う。
恐らくあれでしよ。他人に口出すなんて珍しいじゃん。ってことなんでしょーよ。
真実を知らない相葉さんにとっては俺の行動は珍しいもので。
なんだか勘違いされそうで怖い
「もしかして。…楓さんの差し金?」
「はっ?」
突然そんな事を言われ酒を飲んでいた手が思わず止まる
「ニノって一番仲良いじゃん。楓さんと。神崎ちゃんの事頼まれたでしょ」
大きな勘違いを2つもしている相葉さん。
楓ちゃんと一番仲良い訳でもないしそんな事を頼まれた覚えも全くない。
だけど俺が予想していた勘違いの遥か斜め上を言ってるその発言をなんとなく同意しておいた。
家に帰ってシャワーを浴びながら何となく由梨ちゃんを思い出す。
大丈夫か。あの首。
歯型だと一瞬でわかる程に痛々しい。
思わず自分の首元に手を当ててしまう。
あー。
やっかいなもん見たな。
そして相葉さんの、珍しいじゃん。と言っていた事も思い出して確かにな。と思った。
あんなの見たって気づかないふりすれば良かったしあのやたら好意を押し付けてたスタッフも放っておけば良かった話だし。
ただなんとなく。
気になっちゃったんだよね。
由梨ちゃんの反応が面白くって。
あー。これはダメだな。
後々面倒なことになりそう。
やめとこうと心の片隅で思いながらも喫煙所での由梨ちゃんの反応が面白かったなとなんだかんだやめる気がない自分に嫌気がさした。