第4章 2人の距離 4
マンションの前で別れてから部屋に戻り、ふぅ。と一息つく。
とりあえず煙草を吸い、はぁ。と吹き出される煙を見つめ。
あー。今日も煩悩と闘うのか。とたった1人の戦いにちょっと笑う
由梨とはまだ再会したばかりなのに以前の距離感から大分縮んだと思う。
普通に誰かとこんだけの距離で。
しかも一緒のベッドで眠るって考えたら当然起こることはあって。
それが大人の男女の自然な流れなんだろうけど。
それに由梨のはっきりとした俺の気持ちがまだ決まっていなかったとしてもこっちは昔から決まってて。
そんな感情を持っている相手がキスも簡単にできる距離に無防備に眠っているなんてどんな修行だよって話なんだけど。
でもまだだってわかってる。
由梨の中には少なくとも俺がいるかもしれないけど今はそれだけじゃないのは分かっているから。
もっと慎重に。
大事にしなければいけない。
かといって。誰かに掠め取られるのも嫌で。
由梨の家の鍵を返せないでいる。
由梨が仕事を復活してから由梨狙いのスタッフが騒ついているのを何度か見かけているので内心焦りもある。
だけどね。焦らず。ゆっくり。が目標だから少しでも俺だけに向いてくれるように。
そんな事を思いながら今日の泊まりグッズと余分に洋服を適当に漁って由梨の家に向かった。
向かいながら電話をして勝手に入る許可をもらい遠慮なく鍵を開けると部屋には美味しそうな匂いが既に漂っていた。
「あー。めちゃくちゃ美味そうな匂い」
そう言ってキッチンに顔を出すと、あ!お帰りなさい。とニコッと笑う由梨に少し驚きつつ、ただいま。と笑って返した。
「なんか手伝う?」
お帰りなさい。って言葉に温かみを感じながらそう言った
「大丈夫ですよ。もう終わりました。」
そう言ってお皿を見せに近づこうとする由梨が少し開いていた引き出しに少し躓き、あっ!と小さな悲鳴を上げた。
咄嗟に肩と皿を支えてあげて事なきを得たけど、ほんとにこの人は。
「おっちょこちょい過ぎて見てらんないんですけど」
そう言うと、ありがとうございます。すみません。と困ったような笑い顔をしていた。