第1章 2人の距離
「女の子抱きしめてこんな感じなるのはじめてよ?俺」
そう言って由梨の頭をポンポンと撫でた
由梨は今まで出会った中で少し他とは違うな。と感じていた。
初めて抱きしめたのにドキドキとか、違和感とかは感じなく、ただただはぁ。と一息つけるような。
ほっとする。
きっとこれは由梨が醸し出しているふんわり感の所為だろうと思う
「私もですよ?抱きしめられてドキドキより和んじゃう気持ちになるの初めてです。」
笑いながら言うので笑い返した。
由梨はその後前に向き直りまたボーッと海を眺め何か考え込んでいた。
「ニノさんと私って一体どんな関係?」
ぽつり、とそんな事をつぶやくので、どうなんだろうね。そこらへん。と曖昧な返事をすると少しびっくりしていた。
「…俺は。この何でもない関係が好きだったりすんだけど」
どうよ。と伺うとまた難しい顔をして考え込んでいた
「私は、…ちょっと不安です。」
由梨の声が少し苦しそうに震えていた。
俺は真っ直ぐ前だけ見ていて由梨を見ることができなかった。
見てしまうと何を言って良いかわからない。
「ニノさんといるととても癒されるし、楽しいですよ。…でも。私はそんなに悪くなれないから。」
彼氏の事を思いながらそんな事を言う由梨。
言わせてしまったことに少し後悔した。
今此処に居る事もきっと罪悪感でいっぱいなのだろう。
そんな気持ちにさせてしまった俺は由梨の彼氏と同じ様に由梨を傷つけている気がした。
それでも。
今だけでも。
俺といて癒されるなら。
もう少し肩の力を抜いてほしい。
「…わかってるよ。」
ニコッと笑った後、ゆっくりと抱きしめた
自然に傾けてくる身体に拒否反応はない。
それでもしばらくすると少し泣いているのか身体が震えていた
そんな姿が可愛くて仕方がない。
また俺の中の意地悪心はふつふつとしている。
「…俺、めちゃくちゃ困らせてるよな」
思わず声が嬉しそうに上ずってしまい、それに気づいたのか顔を上げる由梨。
やっぱり少し泣いていたのか目には微かに涙が溜まって見えて思わずふふっ。と笑ってしまう