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ただ一つの心を君に捧げる

第2章 黒を持つ奴隷


食事を終えた後、歯を磨き顔を洗い、化粧水やクリームやらを塗りたくられて部屋に押し込まれた。その部屋はベッドと小さなテーブルに椅子と簡素なものだけど、窓も有って白いカーテンがかかっていた。
これが俺の部屋と言うことなのだろう。一人部屋なんて初めてで緊張する。

けれど何よりも驚いたのはベッドだ。こんなに柔らかくて良い匂いのする寝床は初めてだった。今までは硬い地面の上で薄い布にくるまって寝ることがほとんどだったので、ベッドと言うものがこんなにも心地よい物だとは知らなかった。

ベッドを手で押してみる。するとギシリと音を立ててスプリングが俺の手を柔らかく押し返した。俺は思いきってベッドに飛び込んだ。するとベッドは弾むようにして俺を受け入れた。その心地よさと言えば、まるで雲の上で寝ているような気持ちになった。
大きく息を吸い込むと、清潔な石鹸の香りとお日様の匂いがした。

俺はベッドの心地よさを堪能していたはずが、いつの間にか眠ってしまっていた。



二日間、俺はそんな生活を続けた。誰も俺を殴る人がいないので、俺の顔の腫れは引いて体もずいぶんと楽になった。
その頃には俺も色々と考える余裕が出来てきた。

俺はあの女神様に買われたのだ。だから俺はあの女神様にお仕えする事になるのだろう。あの綺麗で優しい笑顔の人の為に働くことが出来る。
そう思うだけで俺は胸が熱くなった。


三日目、俺の部屋に褐色の肌の男がやって来た。男は俺を冷めた目で見下ろし、品定めする様に上から下まで視線を走らせた。

「…見れるようにはなったな」

男は俺と同じ奴隷なのだろうか。だってこんなに綺麗な男の人、上等な奴隷でしか見た事が無かった。上等な奴隷は直ぐにお金持ちに買われて、普通の人よりも綺麗な服を着せて貰えるらしい。
褐色の肌の男は顔に傷は有ったけれど、間違いなく上等な奴隷の部類に入るだろう。それに黒い服に白いシャツはシンプルだけど良質の物だと分かる。

「あんたも奴隷なのか?」

そう聞くと、男は僅かに不快そうに眉を動かして目を細めた。

「私を貴方と同じにしないで下さい。私は執事、貴方は奴隷です。私の事はベルクールと呼びなさい」

「ベルクール…」

どうやら男は奴隷では無かったらしい。間違えて申し訳無いことをしてしまった。
男は面倒そうに大きな吐息をつき続けてこう言った。

「服を脱ぎなさい」
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