第4章 褐色の奴隷(過去)
彼がどんな肌の色で瞳の色か何てもう忘れてしまった。でも私は幼いながらに素敵な小さな王子様を気に入って、姿描きを胸に抱いて何時も過ごしていたのを覚えている。
社交界に出る前の私が隣国の王子様との婚約を受け入れた出来事は直ぐに国中に拡がった。あんな野蛮な国の王子と婚約なんて、と蔑む人もいたけれど私も私の周りの人達も気にしなかった。
何時王子様に会えるのだろうと胸をときめかせていたのだけれど、その想いはあっさりと砕けてしまった。
…王子様が死んでしまった。
お忍びで出掛けていた先での事故だったらしい。その知らせを聞いた私は泣いて泣いて、随分と落ち込んだ。余りにも酷い落ち込み様に私をとても心配したお兄様に勧められるままに、お兄様の友人と婚約する事になった。
その人はとても優しくて、毎日お屋敷に来ては落ち込んだ私を根気強く励ましてくれた。一緒の時間を過ごす内に、この人でも良いかもしれないと思い始めた矢先だった。
また、私の婚約者が死んでしまったのだ。
今度は王都への移動中に賊に襲われた際の不運だったらしい。
それからだ。
誰が言いはじめたのか分からないけれど私と婚約すると不幸になる、命を落とすと噂される様になった。そこから私と関わっただけで不幸になると噂は発展して行って、私の家族や領地の人達すら周囲から蔑ろにされるようになった。
私のせいで、領地は一層貧困にあえぐようになった。
そんな私だから社交界のデビューは散々なものだった。皆が私を遠巻きに見るだけで、きらびやかなダンスやかしましいお喋り何てものは私には無縁のものだった。パーティーに行けば興味津々な視線を向けられて、ボソボソと陰口を叩かれる。
直ぐにパーティーになんか行かなくなった。
貴族の男女は社交界で結婚相手を見付けるのが主だけれど、パーティーへ行かない私にはそんな機会はなく。以前は山ほどに来ていた婚約の申し入れも今はすっかりと無くなっていた。
お父様とお母様が必死に結婚相手を探しても、相手から断られてしまう。
申し訳無くて申し訳無くて、皆に顔向け出来なくて、私は一日の大半を自分の部屋で過ごすようになった。
そんなある日、私に一つの婚約の申し入れが来た。
それはこの国の副騎士団長の地位を持つ大貴族の一人、グラウィス・グランディエ様からの申し入れだった。