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ただ一つの心を君に捧げる

第2章 黒を持つ奴隷


○女主人○

「ベル、あの子の様子はどう?」

私は本を置きお茶を入れてくれたベルクールに問いかけた。数日前に奴隷商人から買った青年。
歳はまだ十代だろうか、ろくに食事を与えられていない痩せた体から年齢をはかるのは難しい。

奴隷商人に蹴られていた彼が、何となく気になって買ってみた。

彼を買うのに苦労はしなかった。私が彼を買うと言うと、とても機嫌が良くなった商人は、貴重な一族の生き残りで珍しいからと値を上げてきた。

後から駆け付けたベルクールが商人に文句を言おうとした所を黙らせて、商人の言い値を払った。商人を射殺さんばかりに睨み付けているベルクールとは対照的に、飛び上がらんばかりに喜んでいる商人は慌てて笑顔で奴隷を引っ張り起こした。

取って付けた様に機嫌取りをし、ごますりをしてくる商人。綺麗にして後日屋敷に届けると言う商人の申し出を断り、その奴隷を連れ帰ったのだった。





「マリア様のおっしゃる通り、綺麗にして栄養をつけさせています。明日にはお会いする事も出来るかと」

答えたベルクールは何処か不満そうだった。何処がと言われると表現するのは難しい。頬を膨らませている訳でもなく、眉間に皺を寄せるわけでもない鉄面皮な彼。でもベルクールは不満なのだ、それが私には分かった。

「ベル、不満そうね?」

私がそう言うと、彼はハッとした様な表情をし慌てて頭を下げた。

「っ、申し訳ございません」

「怒ってはいないわ。…私の我が儘よ。あの子の事、宜しくね?」

私の言葉にベルクールは何事にも動じない完璧な執事の仮面をかぶり直し、うやうやしく頭を下げた。

「承知致しました」




ベルクールは私がこの家に嫁いだ時から、ずっと側で仕えてくれている執事だ。

もし世界が私の敵になったとしても、彼だけは私の側にいるだろう。彼は自分が死ぬ最後まで私に忠実に仕えるに違いない。



私はベルクールが入れてくれたお茶を口にした。
お茶は私が好きな茶葉で温度も申し分無い。お茶請けには私の好きな茶菓子まできちんと添えられ、体が冷えぬようにと甲斐甲斐しく膝掛けをかけてくれる。

ベルクールは自分以外の者に私の世話をさせない。用事が有り、どうしようも無い時はメイドに代わりを頼んだりするけれど基本は何時も私の世話はベルクールがしてくれる。

彼はとても頼れる私の執事だ。
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