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ただ一つの心を君に捧げる

第2章 黒を持つ奴隷


今回は城下街と言うことも有り、とても賑やかだった。親方が奴隷達を売り込む声も何時もより一際大きいように思う。でも午後になり、予想外に売り上げが伸びない事に親方が苛つきはじめた。

親方の椅子に座った足が、小刻みに動いている。ガタガタと鳴る椅子に檻の中の奴等も、何時親方の苛立ちのとばっちりを食うかとびくびくと脅えていた。
俺は出来るだけ親方の目に止まらぬように、失敗をしないように慎重に行動した。

「おい!早く水を持って来い!」

親方が苛々と怒鳴った。俺は慌ててコップに水を注ぐと、盆に載せて運ぼうとした。けれど、慌てていたせいか足元にある荷物に気が付かなくて足かせが荷の角に引っ掛かってよろけてしまった。

あっ、と思った次の瞬間にはコップは盆から滑り落ちて地面に転がっていた。木のコップだから割れはしないものの、中の水は見事に地面にぶちまけられていた。そしてその飛沫の一つが、親方の靴の先にポツンと小さな染みを作っていた。

それを見た親方は、良い苛立ちの捌け口を見付けたとばかりに顔を歪めさも嬉しそうに笑った。

俺は血のけが引いて、手がブルブルと震え出すのが分かった。

「このっ、くそガキが!!」

親方は俺を容赦なく蹴りつけた。俺はその衝撃で積み荷へと背中から突っ込んだ。そのせいで荷が崩れて俺の上に落ちてくる。
早く、早く起きて親方に謝らなければならない。俺は親方に蹴られながらも何とか起き上がると、手をつき額を地面へと擦り付けた。

こうなったら、大人しく親方の言うことを聞いて親方の怒りがおさまるまでやり過ごすしかない。

「このっ!このっ!」

親方の靴が容赦なく俺の背中や肩、頭を蹴りつける。昨日も殴られた傷の上をまた親方が蹴りつける。叫びたくなるような痛みを唇を噛むことで必死に耐えた。声を上げようものなら、親方は「生意気だ」ともっと俺を蹴るからだ。

早く、早く終わってくれ。

蹴られる俺を見てまた始まったと興味無さそうに自分の仕事を続ける者、中にはニヤニヤと楽しそうに笑って眺める者すらいる。同じ奴隷仲間だって、自分に火の粉が飛ぶのを恐れて目をつむる。

誰も俺を助けてくれはしない。

俺は一人だ…俺は…






ざわり、と周囲がざわめいた。
すると親方の足が止まって、フワリと良い匂いがした。

何事かと顔を上げるとそこに……


優しく笑う女神様がいた。
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