第3章 女主人
○女主人○
扉がノックされた。きっとベルクールがノアールを連れてきたのだろう。私は本を置いてソファから立ち上がると、迎えるために扉へと向かった。
前はノアールをとても緊張させてしまったので、今日は緊張させない様にしようと自分の顔を一撫でして改めて笑みを作った。
扉を開けると、私が自ら開けるとは思っていなかったのだろう間近にいたベルクールが僅かに驚いて目を瞬いた。その表情を見て何だか得した気分になった。
「ベルご苦労様。…ノアール待ってたわ!入って入って」
私に急かされて狼狽えているノアールは、戸惑ったようにベルクールと私を交互に見ている。ちょっと、ご主人様はこっちよ。と言いたくなったけれど、ベルクール相手では仕方がない。
「マリア様、そんな子供っぽい態度はお控え下さい」
ベルクールがため息と共に呆れたように目を細めた。私は気にせずにノアールの手を引いて中へ招くと、閉めるために扉に手をかけた。
「だって、ノアが来るのを楽しみにしていたんだもの。あぁ、そうそうベル、明日の朝食は半熟卵とベーコンとベーグルが良いわ」
「承知しました」
宜しくね、と告げて扉を閉めようとするとその扉を押さえられた。その行動にベルクールとの距離が予想以上に近くなってドキリとする。慌てて一歩身を引いた。
「っ…マリア様、終わられたら何時ものようにお呼び下さい」
「分かったわ。きちんと呼ぶわ…もう良い?」
私は話しを遮るようにもう一度扉を引いた。するとベルクールは今度は素直に手を離し、扉は閉じたのだった。
ベルクールの姿が見えなくなってホッとする。私はノアールに向き直ると、改めて笑顔を浮かべて見せた。
「ノア、良い子にしてた?」
「は、はい!」
私と向き合うと、途端に顔を真っ赤にするノアールがやっぱり可愛い。今までの相手は経験が豊富で話のわかる年上ばかりだったから、ノアールの反応がやけに新鮮に感じてしまうのだ。
ノアールは視線を下に向けてモジモジと居心地が悪そうに体を揺らした。私はそんなノアールの状態に気付いて笑みを深めた。
ノアールの股間は既に高ぶり、ズボンを押し上げて不自然に膨らんでいたのだ。
私に欲情し、顔を真っ赤にしてモジモジと震える姿が昔の彼に重なってドキンと胸が高鳴った。
私は堪らずにノアールに近寄ると、そっと抱き締めたのだった。