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ただ一つの心を君に捧げる

第3章 女主人


湯浴みで体は清めたものの、それ以降は夕御飯も食べる気にならず、俺は部屋で時間が経つのを待った。凄く、凄く長い時間だった。

夜になって俺の部屋の扉がノックされた。

来た!

きっとこれは俺をご主人様の元へと連れていく為の迎えに違いない。俺はベッドからよろよろと立ち上がって逸る気持ちを抑えて扉へと向かった。

扉を開けると、そこにはベルクールさんが居て俺の様子を目にすると冷ややかな目を細めた。まるで蔑むようなその視線がいたたまれなくて目線を反らす。何故なら俺の股間は既にこれからの行為を期待して、高ぶっていたからだ。

「マリア様がお呼びです」

ベルクールさんはそれだけ口にすると、踵を返して廊下を歩き出した。俺は慌ててその後ろを着いていく。

そう言えば、昼間の出来事をベルクールさんはじっと見ていたのだ。そう思うと恥ずかしさに頬が熱くなる。

「あ、あの、ベルクールさん、申し訳ございません、でした」

俺の謝罪にベルクールさんは振り向かずに答えた。

「それは何に対する謝罪ですか?」

ベルクールさんが鼻で笑った。

「昼間、貴方が不遜にもマリア様の口内で射精してあまつさえマリア様のお顔を汚した事ですか?」

ベルクールさんは足を止めると、俺の方を振り向いた。そして俺へと詰め寄ると逃げて後退る俺を壁へと押し付けた。

「それとも、貴方が今もマリア様の美しいお姿を想像して、その汚いものを勃起させている事ですか?」

ベルクールさんの拳が俺の直ぐ側の壁を叩いた。ドンと大きな音に体がすくむ。
俺が脅えている事に気がついたのだろう、ベルクールさんは俺から離れると背中を向けた。

「…余り調子に乗らない事です。奴隷はマリア様が飽きるまでの使い捨てですから」

そしてベルクールさんは先程と同じ様に歩き出した。

俺は驚いていた。あのベルクールさんが俺に詰め寄り、憎々しげに睨み付けていた。こんなにも感情を露にするベルクールさんは、ご主人様が倒れた夜以来だった。

俺は戸惑いながらも、置いていかれないようにベルクールさんの後を追いかけた。



「奴隷は使い捨てだ、一時的な寵愛に過ぎない。でも……………

…マリア様が愛人のものを口で奉仕するなんて…初めて、見た…」

そんな呟きをベルクールさんが口にしたことを俺は知らなかった。
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