第3章 女主人
「はぁ、お腹いっぱい」
「マリア様、はしたないですよ」
フルーツサンドまでしっかりと食べきり苦しくなって、お腹を擦っていたらベルクールに注意された。でも注意されたのは私なのに、何故かノアールが慌てて居住まいを正した。
「俺、ここに来てから食堂で何時も美味しいご飯を食べさせて貰ってるけど…ご主人様と一緒に食べたサンドイッチが一番美味しかったです」
気恥ずかしげに、私と一緒に食べたものが一番美味しかったと言ってくれたノアールが可愛い。
照れて頬を染める姿や、一生懸命私に話す姿がまた可愛いとか思っていると最後に食べたフルーツサンドのものだろうか、ノアールの口許にクリームがついているのに気が付いた。
「ノア、じっとしてて」
「はい?」
私は身を乗り出すと、ノアールの顔に自分の顔を近付けた。
「わわっ」
途端にノアールの顔が真っ赤に染まる。
「ノア、動かないの」
「は、はぃ」
ノアールは真っ赤な顔でギュッと目を閉じた。私はそんなノアールの口の端についたクリームに舌を伸ばすと、それをペロリと舐め取った。舌が触れた瞬間、ノアールがピクリと体を震わせた。
真っ赤になって固く目をつむり、緊張に小さく体を震わせる姿に悪戯心が刺激されてしまった。そのまま頬へ唇を押し当ててから、耳へと唇を寄せる。そしてこっそりと囁いた。
「ノア、キス…しましょうか」
ノアールは一瞬、吸った息を詰めた後に真っ赤な顔のままコクンと頷いた。
「ふふっ、良い子。キスの仕方は覚えてるかしら?」
「…はい」
ノアールは閉じていた目を開くと私の唇をじっと見詰めた。そして顔の角度を変えると、私の唇と自分の唇を重ね合わせた。
「ん…」
ノアールの唇の傷はすっかりと癒えていて、瘡蓋も無くなっていたので今回の彼の唇はとても柔らかかった。
「んっ、ご主人様…」
ノアールが掠れた声で私を呼ぶ。もっと深く口付けようと口を開くと、空かさずノアールの舌が口内に入り込んで私の舌を絡め取った。
「はっ、ん…」
「んっ、んんっ」
物覚えの良いノアールはしっかりと私の感じる場所を覚えていたらしく、舌でそこを擦り舐め上げた。ゾクゾクとした快感がわき上がる。
私達は顔の角度を変えて何度も夢中で口付けた。
そんな私たちをベルクールが何時もの冷たい表情で見詰めていた。