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ただ一つの心を君に捧げる

第3章 女主人


「ノア、こっちよ!こっち!」

不安そうに周囲を見回しながら庭の奥へとやって来るノアールを見付けて声をかけた。手を上げて自分の場所を知らせると、ノアールは私の顔を見た途端に安心したように破顔して駆け寄ってきた。

「ご主人様、お待たせしました」

「全くです」

「ベル!」

ノアールに冷たい態度を取るベルクールに抗議したのだけれど、ベルクールは動じる事なく素知らぬ振りで昼食の準備を続けている。困ったものだわ。

「良いのよノア、中庭は初めてだったのでしょう?迎えを出せば良かったわね」

「い、いえ、俺の方こそ…もっと考えて行動すべきでした。申し訳ございません」

頭を下げたノアールが素直で前向きで可愛くて、つい下げられた頭をわしゃわしゃとかき混ぜるようにして撫でた。

「うわぁぁ」

髪を乱すと、情けない声を上げたノアールに意地悪く笑って見せた。するとノアールは怒るどころか、何か言いかけた口を閉じて真っ赤になってしまった。うーん、やっぱり可愛い。

「うふふ、ノアが可愛いから悪戯したくなっちゃった。ごめんなさい」

「別に…俺はご主人様のしたいようにして下さって…良いです、から、謝らなくても…」

私はノアールの髪を摘まんで整えると、手をとって引っ張った。

この屋敷は王都から離れていて不便では有るけれど、面倒な貴族達との付き合いも少なくて済むし静かで良い環境だと思う。特に中庭の花は見事なもので、年中様々な景色が楽しめて私のお気に入りだ。

今はちょうど色んな花が咲いている季節で、風が吹くと少し肌寒いけれど日の光が温かい良い季節だった。
ベルクールは本当はガゼボで、テーブルについて昼食を取らせたかったみたいだけれどせっかくの外での食事だもの、堅苦しく無いのが良かった。
だから芝生に敷き布を用意して貰って、そこに昼食を用意して貰ったのだ。

もの凄く頑張ってベルにおねだりしたかいがあった。

「見て見てノア、凄いでしょう?ピクニックみたいでしょ?」

「本当だ!何だか楽しくなりますね!」

でしょう、と得意気に胸を張ってベルクールをチラリと見た。どう?私の提案ってとっても素敵なことなのよ。と誇らしげに笑うと、ベルクールは私の様子に小さく苦笑いを浮かべた。

「さぁ、ノア。一緒に食べましょう!」

ノアを敷き布へ座らせると、私も腰を下ろして共に食事を楽しんだのだった。
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