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ただ一つの心を君に捧げる

第3章 女主人


○女主人○

どうやら日頃の疲れがたまっていたらしく、その中で激しい運動をしたものだから倒れてしまったらしい。数日は部屋でゆっくりするようにと医者に言われてしまった。

「ベル、ねぇベル、そろそろ外に出ても良いかしら?」

私はベッドヘッドに凭れながら、朝食の片付けをするベルクールのご機嫌をうかがった。ベルクールはそんな私を作業の手を止めてチラリと僅かに見ただけで、直ぐにまた片付けを再開した。

「駄目ですよ、あの野蛮人に犯し殺されそうになった人が何を言っているんですか」

「あら、あんな程度じゃ死なないわよ」

「それでも駄目です」

そっけないベルクールの態度に口先を尖らせる。ベッドに俯せになると、バタバタと足を動かした。

「ベルのケーチ、ケチケチー!」

駄々をこねる子供のようにベルクールに訴えてみる。

「子供みたいな事は止めて下さい」

そう言われて足を止めた。横を向いてベルクールの姿を見詰める。

「ベル、だって暇で暇で仕方がないのよ。…ね?お願い!」

私はベッドの上で飛び起きると、手を合わせてベルクールを拝んだ。ベルクールはそんな私を暫く呆れたように見ていたものの、負けたとばかりに大きな息を吐き出した。

「はぁ…分かりました。では庭に出ることは許可します」

「本当!?なら昼食は中庭でお花を見ながら取っても良いかしら?」

「料理長にサンドイッチを作らせましょう。貴女の好きなフルーツサンドも」

「やった!」

何やかんやでベルクールは甘いのだ。

「有難うベル、大好きよ」

私がそう言うとベルクールは困ったように苦笑いを浮かべた。


そう言えば、ノアは元気かしら?不安そうにしていたノアールをまた呼ぶからと言って部屋に帰しておいて、あれから呼んでいなかった。

思い出すと、ノアールの事が気になって来る。

「そうだわベル、ノアを昼食に呼んでちょうだい。お花も見ごろだろうから一緒に頂くわ」

「ノアールですか…」

ベルクールの歯切れが悪い。

「えぇ、そうよ。…ベルはノアを気に入らない?ベルが気に入らないのならノアには屋敷から出て行って貰うわ」

ベルが嫌なら、別にノアは居なくても構わない。

「いえ!いえ…そう言う訳では…」

「なら良いわね?」

「…承知しました」

ベルクールが恭しく頭を下げる。そんな彼に私はにっこりと微笑んだのだった。
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