第3章 女主人
目が覚めた時ご主人様は起きていて、既に身仕度を終えていた。ご主人様の側に控えるベルクールの目が俺を批難しているように見えるのは気のせいだろうか。
その後、ご主人様は朝食を食べてゆっくりするようにと言ってくれた。俺が、ご主人様に呆れられてしまったのでは無いかと不安になっていると、ご主人様は笑って俺の頬へ唇を押し当てた。
「大丈夫よ、また呼ぶわ。昨日は有難う、ノア」
その笑みに俺は安心して、頭を下げ部屋を後にしたのだ。
でも……
また、と言うのは何時なのだろう?俺は特にやることも無くて、部屋に居た。昨日はベルクールが夕飯を食べた後に迎えに来た。もしかしたらと思ってずっと部屋で起きて待っていたのだけれど…
今日は来ないのだろうか?
扉に目をやっては落ち着かない気持ちで吐息をつく。そうやって部屋で一人考えていると、どんどんと思考が悪い方向へと向いてしまった。
もしかしたら、また、と言うのは俺を悲しませない為のご主人様の気遣いで本当はもう俺に呆れてしまって、呼んでくださる気何て無いんじゃ無いだろうか。
そもそも、俺は昨日の事をきちんと謝っただろうか?
「…俺…ちゃんと謝って無い…」
そう思いいたって、凄く不安になった。俺はご主人様の優しさに甘えるばかりで、ご主人様を楽しませることが出来なかったばかりか、お礼も謝罪すらもしていない。気付いてしまうと居てもたってもいられなかった。
「どうしよう…」
もう夜も遅くなっている。ご主人様は起きているだろうか?こんなに夜遅くに起きているはずは無い。でも一度気になると、頭から離れなくて今すぐご主人様に会いたかった。
「部屋に行ってみて、もし返事が無ければ明日にしよう」
俺は寝間着の上にカーデガンを羽織ると、ご主人様の部屋を目指して廊下へ飛び出したのだった。
「確かこっちだったよな?」
昨日一度来たご主人様の部屋の場所を思い出しながら薄暗い廊下を進んだ。もうすぐご主人様の部屋と言うところで、廊下の壁に誰かが寄りかかっているのを見付けた。
壁伝いによろよろと歩く姿は、随分と体調が悪そうだ。俺はその人物に駆け寄ると、その人物に驚いた。
「ご主人様?!」
俺の存在に気が付くと、血の気の引いた青白い顔でご主人様は笑った。
「ノ、ア…」
その途端、ご主人様の手が壁を滑りその体が床へと倒れ込んだのだった。