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ただ一つの心を君に捧げる

第3章 女主人



どうしよう、どうしようどうしよう…

今日はまだ何もされていないし、していない…

このままで終わるはずが無い。


何時来るの?もうすぐ?

ほら、ほらほら!足音が近付いてくる!
今扉の開く音がした!

嫌だ、嫌だ嫌だ!誰か助けて!

誰か!!






「っ!」

私は息を詰めて目を覚ました。慌てて周囲を確認する。暗い部屋の中に私の探す人物が居ない事を確認して、詰めていた息を吐き出した。

額に嫌な汗が滲んで、ドクンドクンと心臓が音をたてている。
大丈夫、大丈夫と何度も自分に言い聞かせて呼吸を整えた。

ふと隣で身動ぎする気配がして体を強張らせた。けれどそれは杞憂で、横を見るとそこに居たのは先日買った黒髪の青年だった。間違いだと理解して体から力を抜いた。青年は深く寝入っているようだ。幸せそうに眠る姿に不快な気分が少し癒される。
私は汗で湿った前髪をかきあげて大きな吐息をついた。

そろそろ限界だったのだ。

てっきり昨夜はノアールとするものだと思っていたから、忙しい事もあり暫く体を繋げていなかった。しかしノアールの様子を見ていると、慣れていない行為を無理矢理させる訳にも行かないだろう。

やはり、明日は誰か他の者を相手にする事にしよう。

私はもう一度大きな吐息をついた。



私は体を繋げる行為が好きだ。だってとても気持ちが良いもの。けれどそれだけでは無くて、私は定期的にこの行為をしなければ嫌な夢を見てしまうのだ。

この悪夢はとても怖くて、見ると気分が沈んでしまう。

けれど体を繋げれば、暫くは夢を見ずに安心して眠ることが出来る。だから私は何時からか、逃げるように複数の愛人を持ちその男たちと代わる代わる繋がる様になった。

その行為が嫌だと思ったことは無い。

気持ちが良い事をして、おまけに良く眠れるようになるのなら願ったり叶ったりだと思う。



しかし、はじめて奴隷と言うものを買ったけれど…慣れぬことなどせぬ方が良かったかもしれない。ノアには可哀想な事をしてしまった。

私は眠るノアールの頭を起こさぬように優しく撫でた。するとノアールは気持ち良さそうに私の手へ頭を擦り寄せるような仕種をして、眠ったままに微笑んだのだ。…可愛い。

「ノア…」

私はノアールを起こさぬようにベッドから抜け出ると、どうせ眠れないのなら仕事をしようと机へと向かったのだった。
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