第1章 【カラ松×一松】約束
「答えてくれないとわからないぞ……、一松」
少し怒ったように呟いた兄さんが、地面を見つめている僕の顔を覗き込む。
けれどその顔はやっぱり苦しそうで、いつ泣き出してしまってもおかしくない。
あぁ、これじゃさっきと、おばちゃんの時と同じだ。
僕は兄さんにそんな顔をさせたかった訳じゃない。
僕の異常としか言えない醜い想いなんて知らずに、ずっと笑っていて欲しかっただけなのに。
どうしてこんなに上手くいかないんだろう。
自分のどうしようもない程の不器用さに腹が立ってまた涙が零れた。
同時に自分の涙のもうひとつの意味に気付く。
僕はカラ松兄さんがそばに居て、僕の為に心を傷めていることに少し喜んでいるのだ。
それに気付いた瞬間、自分自身に吐き気がした。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
心の中で何度も兄さんに謝りながら自分の肩を掻き抱く。
その間も涙は止まることを知らず、次々と地面に向かって落ちていく涙が視界の端に映っていた。
そして、僕はこの時初めて自分の兄さんへの想いが消えて無くなってしまえばいいのにと思ったんだ。
涙と一緒に全て流して捨ててしまえたらどんなに楽か。
自分も苦しくなくなるし誰にも迷惑はかけないのだから、こんなに良いことはないじゃないか……と。
「なぁ、一松……」
不意に肩に触れたぬくもりに驚いた僕は思わず顔を上げた。
困った様に笑って僕の肩に手を乗せている兄さんの頬は、少しだけ紅く染まっているように見えた。
たぶんそれは夕日のせいか何かで、僕が望んでいるようなものではない。
けれど、とても綺麗なその笑顔を僕はいつまでも見ていたいと思ったんだ。
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