第1章 【カラ松×一松】約束
ぽつりと呟かれたその言葉を聞くまでは。
「………俺のこと、好きか?」
目の前が真っ暗になるってこういうことを言うのか。
身体がガタガタと音を立てているのかと思うくらいに震えて、体温は急激に冷えていくのに嫌な汗は止まらない。
早く否定しなくちゃと口を開いてみるけれど、震える唇から漏れるのは意味を成さない音ばかり。
いつからバレていた?もしかして他の家族にもバレてしまっていたりするのだろうか。
と言うか、兄さんは兄弟として自分が嫌われていないかどうかを聞きたかっただけなのではないか。
「……ち……っ」
だとすると僕は自分で自分の首を絞めてしまったことになる。
そしてどちらにしろ、もう前のような兄弟の関係には戻れないはずだ。
それどころか兄さんは、兄弟に対してこんな気持ちの悪い感情を抱く僕を嫌いになるかもしれない。
僕に冷たい視線を向ける兄さんの姿を想像してまた涙が零れた。
「一松っ!」
不意に耳が拾ったのは僕の名前を呼ぶ兄さんの声だった。
意識が現実に引き戻され、目の前で切羽詰まった表情をしている声の主と目が合う。
「カラま…っ…兄、さ……」
しゃくり上げながら兄の名を呼び返すと、何故か兄さんまで泣きそうな表情になったのがわかった。
僕は兄さんに泣いて欲しくなくて、何を言うでもなくただ口を開きかける。
けれど、僕が兄さんに言葉をかけることは叶わなかった。
僕は、声を上げる暇もなく兄さんの腕の中に閉じ込められていた。
もう何が何だか訳がわからなくて、涙なんてどこかに行ってしまった。
今の僕にわかるのは、兄さんに抱きしめられているという事実と顔に集まっていく熱の感覚だけ。
*