第1章 【カラ松×一松】約束
僕の目の前で歩みを止めた兄さんは顔を青くして言った。
「い、いぃ、一松!?どうしたんだ!!なぜ泣いているんだ!?」
おろおろと無駄に手を動かしている兄さんがあまりにも自分の想像通りで、少し笑いそうになる。
しかしそれもすぐに影を潜め、兄さんの表情はすぐに悲痛なものへと変わっていた。
「最近俺を避けていたことと、……何か関係があるのか?」
僕の姿をしっかりと映している兄さんの瞳を見ていられなくて、そこから目を逸らす。
「前は一緒に猫のエサやりに行ったり、俺の練習に付き合ってくれたりしていたじゃないか……」
そうだ、僕はカラ松兄さんの練習を手伝いたいが為に部活に入らなかった。
どうしてそう決めた時点で何かがおかしいと気付けなかったのか。
たぶんそれは、自分でも兄の後ろを付いて回る弟としか思っていなかったし、周りからもそう見られていたからだ。
生まれた時からずっと傍に居て、これからもずっと傍に居るのだと思う。
けれど、今だけは傍に居たくなかった。
自分の気持ちに気づいてからは、それを誰かに知られるのが恐くて不自然に映らない程度に家族との接触を避けていた。
だからまだ誰にもバレていない、と思う。
ただカラ松兄さんにだけはどうしても無理だった。
目を見ると緊張して心臓が煩くなって、いつも通りには話せなくて、最近は顔も合わせないようにしていた。
それがいけなかったことは自分でもわかっている。
けれどそうでもしないと、僕は兄さんの目の前で頬を染め、しどろもどろになっていたことだろう。
当然兄さんは僕の行動を不審に思い、今日僕をここに呼び出した。
だから結果的に良かったのか悪かったのかは定かではないが、仕方のないことだったのだと思いたい。
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