第1章 【カラ松×一松】約束
涙を堪えながら対戦校と挨拶を交わしている十四松の姿を見て、最初に泣き出したのはトド松だった。
トド松には何も言わず、何を考えてるのかわからない表情でグラウンドを見つめるおそ松兄さん。
トド松の頭を撫でながら悔しそうな表情を浮かべるチョロ松兄さん。
そして膝の上で拳を握り締め、静かに涙を流すカラ松兄さん。
カラ松兄さんの瞳はグラウンドに立つ十四松だけを見つめていて、その涙は十四松の為のものであるとすぐにわかった。
それが何故か妙に腹立たしくて、その奥底に僕のためだけに泣いて欲しいという感情があることに気づいた。
これが何を意味しているのかなんて考えたくもなかった。
僕達は男同士である前に兄弟で、そんな感情が許されるはずもない。許されてはいけない。
けれど気づいてしまった感情を無視出来るわけもなく、かと言ってすぐに消してしまえる程軽い想いでもないのだということはなんとなく理解していた。
自分の中に居座り続けるその感情は僕を苦しめ、今までの兄さんとの関係を壊した。
いや、自分から壊したという方が正しいのかもしれない。
「一松ーー!」
不意に耳に入って来たのは誰のものかがすぐにわかってしまう声。
慌てて氷のうを背に隠し、周囲を見渡すと声の主はすぐに見つかった。
久々に真正面から見た兄の姿に思わず涙が出そうになる。
さっきまで泣いていたから。
だから涙腺が緩んでしまっているのだと自分に言い聞かせて目元を力いっぱい拭った。
*