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誰得?俺得!!短編集

第5章 【伊武崎峻】言えなかったこと





あれから数ヶ月が経ち、制服も長袖から半袖に変わって、新しい生活にも慣れて来た。

昼休み。うるさい蝉の声を聞きながら、中学に入ってから出来た友達となんでもないような話をする。

昨日のテレビの話とか、英語の先生の喋り方がやっぱり笑えるとか、好きなアイドルが今度CDを出すとか。

本当にくだらないことばかりだけど、それがどこか心地いい。



こんな風に時々相槌を打ちながら、友達の話に耳を傾けている時。

移動教室なんかで廊下を歩きながらおしゃべりしている時。



そんなふとした瞬間に、この学校に居るはずのない峻の姿を探してしまう自分がいる。



入学したての頃はまだ、忙しさを理由に峻のことを忘れて居られた。

けれど学校生活に慣れて、ある程度ばたばたした雰囲気が落ち着いてしまえばそれもなくなる。





加えて昨日、幼稚園の頃から仲のいい茜が教えてくれた話を思い出してしまえば、峻のことを考えるなと言う方が無理だった。





二週間後、夏休みに入ってからすぐの夏祭りの日。

峻がこちらに帰って来るというのだ。



茜は同じクラスに居る、同小の男子が話しているのを聞いたらしい。

茜は、私が今でも峻を好きでいることを知っている唯一の友達。

バレンタインの出来事があってから、気まずいまま別れてしまったのも知っているから。

たぶん、話をするいい機会だと思ってくれたのだろう。



「夏祭り、行かないなんて言わないよね?」



少し不安げに、けれど真剣な瞳で私を見つめる茜に、私は曖昧に笑って返した。



「……行くよ、約束してたんだから」



峻と一緒にお祭りに行かなくなってからは、茜と、時々他の友達も交えてお祭りに行っている。

今年も当然、茜と行くつもりで居たけれど、ほんの少しだけ行きたくないな……なんて思う。



茜が思っているように、峻と会って、ましてや話せるかどうかなんてわからないのに。





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