第5章 【伊武崎峻】言えなかったこと
言った後で我に返り、どんなに後悔しても遅かった。
今でも、峻の強張った表情と、泣き出しそうな瞳が脳裏に焼き付いて離れない。
「……ごめんな」
困ったように笑って、最後だからと峻が置いて帰ったトリュフは、今まで作ってくれたどのチョコよりも甘くて苦かった。
あの日を最後に、峻は本当に私と目も合わさなくなった。
昨日あった卒業式の時ですら、会話もなく終わってしまうのだろうと思っていた。
けれど、お互いの母親がそんなこと許すはずもなく……。
二人で校門の前に並んで、写真を撮らされた時。
「お互い頑張ろうな」
そう一言だけ、ぽつりと言われたから。
私は小さく「うん」とだけ返し、カメラに向かってぎこちなく笑った。
お母さんには「早く仲直りしなさいね」と度々言われるけれど、出来る訳がなかった。
私から突き放して傷付けたのに、そんな虫のいい事言えるはずもない。
それに、例え仲直りをして元の関係に戻れたとしても、中学からは別々の場所で生活することになる。
同じ夢を持つ人達の中に居れば、自分の考えを理解してくれたり、同じような悩みを抱えていたりする人も居るだろう。
その中には当然、女の子だって居るはずで……。
今まで峻と一番仲がいいのは自分だと思っていたけれど、これからは違ってくる。
それにあの日の放課後のことだって、まだはっきりしていない。
小さい頃の約束なんて、もうあってもないようなものだし、峻がそういう意味で私のことを好きかどうかわからない。
今まで馬鹿みたいに持っていた自信なんて、もう私の中にあるはずもなく。
結局仲直り出来ないまま、峻は遠月茶寮料理學園に、私は学区内の市立の中学へと入学した。
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