第4章 【山崎宗介】Emerald green
「私に泳ぎたいって思わせてやるって、あれ、忘れちゃった?」
私のことも見てよって、子供みたいに駄々を捏ねている自分に気付いて、恥ずかしさが込み上げる。
首から上の辺りがじわじわと熱を持って行くのがわかった。
けれど、どうやらそれは、私だけではなかったらしい。
「なっ、おま、……覚えてたのかよ」
自分の掌で顔の下半分を隠してはいるが、宗介の顔も赤く染っている。
それが何だかおかしくて、今まで真剣に話していたことなんて忘れて、思わず噴き出してしまった。
宗介はそっぽを向いて溜息を吐いていた。
「……なに笑ってんだよ」
「っ、だって、言った本人が恥ずかしがってるんだもん」
溢れてきた少しの涙を拭って、呼吸を落ち着かせるために深く息を吐く。
「ねぇ」
そう声をかけると、宗介はすぐにこちらに顔を向けた。
私の姿を映す彼の瞳は、やっぱり海の色に似ていると思う。
「水泳、辞めるの?」
私の我儘だけで、彼の考えが変わるとは思えない。
聞くだけ無駄かもしれないけれど、今の宗介の気持ちが知りたかった。
だから、ちょと聞いてみただけだったのに。
「お前と泳げるまでは、辞められねぇのかもな」
目を細めて、“仕方なねぇな”とでも言うように笑ってくれるなんて思ってもみなくて。
「なにそれ……、私のためなの?」
「さぁ、どうだろうな」
「ちょっと、そこは嘘でも私のためって言っときなさいよ」
目の前にある彼の左肩を少し強めに叩くと、宗介は”痛てぇ”なんて言うけど、それでも顔は笑っていた。
それを見た私も自然と笑ってしまう。
けれど本当は、宗介自身のために泳いで欲しい。
怪我が完治するなら、それが一番いい。
そうすればまた、凛と一緒に世界を目指して泳げるはずだ。
現実になるかどうかは別問題として、願うだけなら許されるだろうか。
きっとあの怪我を治そうとするのは、かなり大きな決断になる。
それを私から諭すなんて出来ない。
だって、それを言える人がたった一人だけ。
確かに居ることを私は知っているから。
「おい宗介!もう他のやつら集まってんだぞ」
そんな声がどこからか聞こえて来て、私と宗介はその声のする方に顔を向けた。
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