第4章 【山崎宗介】Emerald green
「だから、俺は水泳を辞める。そう決めてた」
止めたくても、もう止められないと思った。
「だけど去年の地方大会で、凛達が泳ぐのを観て考えが変わったんだ」
凛が一人で苦しみ、藻掻いていたこと。
それに気付かずにいた自分が許せなかったこと。
七瀬くん達と一緒に泳いだ凛が、個人の時とは比べ物にならないくらい、いい泳ぎを見せたこと。
肩を組んで笑い合う四人を見て、言いようのない感情に襲われたこと。
息つく暇なくしゃべり続ける宗介は、どこか楽しそうだった。
「最後に、凛とリレーを泳ぎたい。あいつと本当の仲間になりたい。そう思ったんだ」
わずかに微笑んでそう言い終えた宗介の願いは、たぶん叶ったんだろう。
だからそれが叶った今、宗介を水泳の世界に繋ぎ止めておけるものはないのかもしれない。
「水泳、本当に辞めるの?」
それでも私は、宗介に水泳を辞めて欲しくない。
「あぁ、それは変わらねぇよ」
宗介は凛と一緒に泳ぐって夢を叶えて、もう満足してしまったのかもしれないけど。
「私は、許さないからね」
私とのちっぽけな約束は、果たされてないんだから。
「私まだ、宗介と一緒に泳いでないよ」
本当はこんなこと、言うつもりなんてなかった。
宗介も、まさか私がこんな風に言い出すなんて予想していなかったのか、目が点になっている。
「宗介が言ったんだよ、一緒に泳ごうって」
それでも、今の宗介には凛のことしか見えていない気がして悔しかったんだ。
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