• テキストサイズ

誰得?俺得!!短編集

第4章  【山崎宗介】Emerald green





彼は少しの間呆然としていたけれど、我に返ったのかゆっくりとこちらに近付いて来る。

その表情はどこか穏やかで、少し安心した。

「久しぶりだね」

「あぁ」

思いの外落ち着いている自分に驚きながら、ベンチの自分の隣を二三度軽く叩く。

すると宗介は、私に言われた通りそこに腰を下ろした。

「江から聞いたよ、こっちに帰って来てるって」

「まぁな。は……、凛にはまだ会ってないのか」

「うん、まぁね」

宗介以上に知らない男の人になってしまった凛に、会うのが恐かったと言うのはあると思う。

けれど、会える距離に居るのに何で今まで会わなかったのかと聞かれると、上手く答えられる自信がない。

「そうか」

だから、宗介がそこを深く追求してこないことに安堵する。

それと同時に、やっと本題に入れると思った。



「私が聞いていいのかわからないけど」

そう言う間は、宗介の顔が見られなかった。

「戻って来たことと、リレーを泳いだこと」

この時に宗介の横顔に目を向けて初めて、宗介が私を見ていたことに気付く。

「それに肩の怪我も関係してる?」

澄んだ海みたいな色をした瞳に、満足感と、それとは別に諦めの感情が見えた気がした。

宗介は一瞬目を見開いて固まっていたけれど、すぐにふっと表情を緩めて深く息を吐いた。



「やっぱりお前らに隠し事は出来ねぇな」

“お前ら”って言葉は、きっと凛と私のことを指しているのだろう。

「そうだよ。高一の夏に傷めてから、故障とリハビリを繰り返してる」

自分の右肩に手を当てて、オーバーワークが原因だと続ける宗介の表情は、暗くはなかった。

「もう、前みたいには泳げねぇ」

精一杯泳いでも、その結果は怪我の具合に左右され、今までと同じような気持ちでは泳げない。

それが苦しくて、惨めだった。

そう言われてしまえば、私には何も言えない。



/ 55ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp