第4章 【山崎宗介】Emerald green
凛とそのチームのメンバーが、宗介の怪我に気付いていないなんてことは有り得ない。
宗介が今あそこに立っていると言うことは、怪我を承知の上で彼の出場を許したと言うことだ。
それなら私は、黙ってこの試合を見届けるしかないじゃないか。
ただ、彼がこのリレーを泳ぎきれるように願うしかないんだ。
テイク・ユア・マークのあとにピストルの音がひとつ鳴り、スタート位置に構えていた選手達が一斉に水の中へ潜る。
あちこちから声援が上がって、それに応えるように選手の泳ぎが加速する。
夢中で水を掻き分けターンで折り返して、また腕と足を一心不乱に動かす。
そして、水の中にいる誰よりも先に仲間の所へ戻る為に必死に手を伸ばす。
それを受け取る選手が、一瞬の隙もなく水の中へ飛び込んでいく。
やっていることはどのチームも同じはずなのに、その差は歴然だ。
岩鳶と鮫柄、この二校が圧倒的過ぎた。
個人のタイムにも差があるとは言え、ここまで引き離されてしまうものなのか。
平泳ぎの選手がスタート地点に戻って来た時には、岩鳶のあとを鮫柄が追う形だった。
その差はあまりないけれど、次は問題のバタフライだ。
クラウチングスタートの姿勢で飛び込み台の上に居る宗介を見ていると、どうしようもなく不安になる。
けれどその不安を他所に、宗介は躊躇うことなく水の中へ飛び込んで行った。
怪我なんて微塵も感じさせない。
昔以上の力強い泳ぎで岩鳶との間にあった距離を縮め、ターンに入った。
けれどその少しあと、宗介は消えた。
文字通り、鮫柄のレーンのどこにもその姿が見えないのだ。
一瞬何が起こったかわからなかったけれど、肩の痛みで泳げなくなったんだと理解する。
「宗介ッ!!」
気が付いたら観客席の最前列まで駆け下りて、彼の名前を呼んでいた。
それは彼のチームメイトも同じだった。
凛も私も、宗介はこんな所で終わるようなやつじゃないってそう信じてる。
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