第4章 【山崎宗介】Emerald green
顔を見て、少しでいいから話がしたい。
ただそれだけだった。
県大会は観に行けなかったから、地方大会ならと思って、江に場所と大体の時間だけを聞いていた。
水泳部のみんなは前日からホテルに泊まっていたみたいだけど、私はそうもいかない。
朝早く起きて電車やバス乗り継ぎ、聞いたこともない土地で一人会場を目指す。
その間もずっと、何を話せばいいか、どう伝えればいいかだけを考えていた。
けれどそれも全部、消えてなくなった。
会場に入り急いで受付を済ませた頃には、リレーメンバーを招集するアナウンスが聞こえて来て焦った。
小走りで観客席へ繋がる階段を駆け上がると、すぐにプールが見えた。
プールサイドに、リレーを泳ぐ選手達が四人ずつスタート台を前に並んでいる。
その中に七瀬くんと橘くん、凛の姿が見えて、やっとここが試合会場なんだって実感する。
久々に見る光景に感動している暇もなく、凛の後ろにどこか見覚えのある男子が立っていることに気が付く。
顔付きが大人っぽくなってはいるけれど、彼が私の知っている山崎宗介なんだとはっきりわかった。
最後に見た時よりもずっと、大きく逞しくなった姿を見て一番に感じたのは、困惑だ。
首筋に嫌な汗が滲み、寒いわけでもないのに身体が震える。
今の彼に泳げる訳がない。
素人目でもそう思ってしまう程に、宗介の肩は赤黒く変色し腫れ上がっていた。
それに気付いた周りの人達も少しざわついているようだった。
けれど、試合は滞ることなく進んでいく。
合図と共に、一人目の背泳ぎを泳ぐ選手達が次々にプールへ飛び込み、位置につく。
それをじっと眺めていると、頭の一部がすっと冷えていくのがわかった。
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