第4章 【山崎宗介】Emerald green
「なぁ、お前、なんでいつも泳がねぇの?」
「……水、嫌いだから」
「けど、泳げないってわけじゃないんだろ?」
「まぁ、一応……泳げるけど」
「じゃあ次は一緒に泳ごうぜ」
「でも、私」
「だってお前、水が嫌いって顔してねぇもん」
「っ、そんなこと……」
「だから俺が、お前にまた泳ぎたいって思わせてやるよ」
私の気持ちも理解しているからこそ、凛には言えなかったこと。
それが“泳ごう”って言葉だ。
宗介はその一言を、何の躊躇いもなく笑って言ってくれた。
あの日大嫌いになったはずの水を、好きになってもいいんだって。
泳ぐのが楽しいと、そう思ってもいいんだって。
私は水が、海が好き。
水の中に居ることが好き。泳ぐのが好き。
水が嫌いだって言い張る私を、どうにかして水泳の世界に引き戻そうと手を引いてくれる宗介が好き。
私は意地っ張りで臆病だから。
どこまでも真っ直ぐで、自分の意思を貫く強さを持っている彼に憧れた。
けれどもう会うこともなくなって、彼は彼で別の場所で水泳に打ち込んでいる。
伝える手段も、伝えようと言う意思も、私にはなかった。
東京の住所も、メールアドレスも、電話番号も。
宗介は何も、私に残して行ってくれなかったから。
もう忘れた方がいいんだって、ずっとそう思って来たのに。
結局私は、あなたに会いたいと思ってしまうんだ。
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