第4章 【山崎宗介】Emerald green
凛と宗介が口を聞かなくなって数日が経ち、三人で一緒に下校するのも耐えられなくなりそうだなんて思い始めた頃だった。
学校を出てまだそんなに歩いていないはずなのに、汗が止まらない。
私の前を横並びで歩く二人の距離が微妙に開いていて、空気も心做しか重苦しい気がする。
そのせいで暑さも三割増しだ。よくわからないけれど。
「なぁ、凛」
そんな中、不意に口を開いたのは宗介だった。
「……んだよ」
凛はいつもの彼からは考えられないくらい無愛想に、そう一言だけ返した。
「バッタの勝負しようぜ」
「いやだ」
謝るでもなく急に吹っ掛けられた勝負を、凛は宗介に目もくれず即答で拒否する。
そして、それを聞いていた宗介が拗ねたようにそっぽを向き、“ちぇ”と小さく呟いた。
けれど私には、何となくこの後の流れが予想出来ていた。
「……フリーの800ならやる」
ぼそりと、私に辛うじて聞き取れる程度の声で凛は言った。
「そうきたか!」
それを聞いた宗介が凜との間に出来ていた距離を詰めて、傍へと寄っていく。
その表情は伺えないけれど、声だけで嬉しさが伝わって来た。
二人はもう、大丈夫だなって思った。
「負けたら次のトイレ掃除交代だからなっ」
「よしっ!絶対勝つ!」
どちらが謝るだとか許すだとかはなかったけれど、二人が笑って拳を合わせるところを見られたら、それだけで十分だった。
「!これからSC行くからお前も見に来いよ!」
私の意見なんてまるで聞かないで、言い逃げのように駆けて行く二人の背中を、私は仕方がないなって顔して追いかけたんだ。
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