第4章 【山崎宗介】Emerald green
いつもなら自転車で通うはずの道を歩いていると、何だか不思議な気分だった。
梅雨が明けてからはほぼ自転車で通っていたから余計にだ。
景色がゆっくり流れて行くから、色んなものに目がいく。
ちゃんと歩道を歩いている野良猫とか、畑で作業をしているおばあちゃんとか。
陽射しが弱い分歩きやすいけれど、その分湿気か汗かわからないもので肌がベタつく。
それが嫌になって、深く息を吐いてから前を見据えると、運良く横断歩道で信号待ちをしている江の姿を見つけた。
「江!おはよう」
後ろから少し声を張って言うと、私の声に気付いた江がこちらに振り返る。
「ちゃん!!」
すぐに嬉しそうな顔で走り寄ってくる江は、やっぱりいつ見ても可愛い。
私の隣に並んだ江と横断歩道までの道を一緒に歩く。
「この時間に会うの久々だね〜」
朝早めに家を出て、教室で課題をしたり本を読んだりして過ごす私と、江の登校時間が被ることは滅多にない。
「そうだよね。水泳部で何かあるの?」
そこまで言ったところで信号が青に変わり、私達はまた歩き出した。
「実は県大会が近付いて来たから、日めくりの“あれ”を書こうと思って……」
江は少し照れ臭そうに笑って、スクールバックとは別の、大きめの鞄を掲げて見せる。
最初は何が入っているかわからなかったけど、去年の今頃のことを考えると何となくわかった。
朝早くから袴姿で半紙に向かい、力強い文字を書き綴る江の姿が思い出されたから。
「なるほど。じゃあ、今回も見に行かなきゃだね」
「うん!来て来てっ」
あの時も登校中に江と会って、水泳部の部室で「県大会まであと××日!!」と書かれたお手製のカレンダーもどきが出来上がっていくのを眺めていた。
もうそんな時期になるのか。
去年は凛が急にオーストラリアから帰って来たり、江が水泳部のマネージャーになったり。
さらには七瀬くんと橘くんに大会を観に来ないかと誘われたりして、何かと驚かされることが多い年だった。
結局それには行かなかったけれど、大体の話は江から聞かされて知っている。
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