第4章 【山崎宗介】Emerald green
朝は、大体同じ時間に起きて二人分の朝食を用意する。
昨日の夜に予約済みの炊飯器が炊いてくれたご飯とお味噌汁と、あとはおかずがいくつか。
昨日の夕食の残りだったり朝から張り切って作ったり、いろいろだ。
作り終えたら、一人でニュースを見ながら静かにご飯を食べる。
芸能人の熱愛報道、何かの事件に巻き込まれた誰かが亡くなった、今日の占い、今日の天気予報。
お天気お姉さんの「昼から雷を伴う雨になるでしょう」なんて言葉に、少し気分が沈んだ気がして。
そんな気のせいをお味噌汁と一緒に奥の方へ流し込んで、食べ終えた食器をシンクに置いておく。
これはお母さんとの暗黙の了解みたいなもので、ご飯を作らなかった方か時間に余裕のある方が、洗い物をする。
だから今日は洗い物をサボってもいいのだ。
玄関で履き慣れたローファーを履いて、靴箱の上の鍵と傘立てからお気に入りの傘を一本手に取る。
「いってきます」
自分の言葉に誰の返事もないまま扉を開けて外に出た。
昼から雨になると言うだけあって、空は薄暗い鈍色だ。
それを写した海の色もいつもより濁って見える。
雨の日の海は、青い海よりももっと嫌いだ。
あの日の、荒れた海の色を思い出すから。
凛は強いなって、今でもそう思う。
私と同じように大切な人を海に奪われても、水を怖がるでも嫌うでもなく受け入れて、今も高いところを目指して泳いでいる。
凛のお父さんが生きていた頃は、私も凛と江に連れられてスイミングクラブに通っていたから、人よりは泳げる方なのかもしれない。
きっももう、泳ぐことはないだろうけど。
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