第1章 【カラ松×一松】約束
今日は珍しく先生からノート運びを頼まれることもクラスメイトから掃除を頼まれることもなく、通常の下校時間に学校を出ることが出来た。
今日みたいな日、僕には決まって行く場所がある。
僕は鞄の中に財布が入っていることを確認し、近所の商店街へ向かった。
学校から歩いて数分の所にある商店街は、夕方と言うこともあってそこそこ人が行き交っている。
道端で談笑しているおばさん達の声、鼻をくすぐる惣菜の匂い、子供の駆け回る足音で溢れたこの場所が、僕はなんとなく好きだ。
見慣れた看板が見え、僕は自然と足の動きを緩めて立ち止まった。
いつものように店の奥で猫の背を撫でながら柔らかな笑みを浮かべているこの店の主人に、僕もいつもと同じように声をかける。
「おばちゃん、猫缶ください」
彼女の膝の上で丸まっていた猫が顔を上げ、それにつられるようにして彼女もこちらに顔を向けた。
「いらっしゃい、一松ちゃん」
一瞬目を開いて僕を捉えた彼女は、また目を細めて優しく微笑んだ。
「ちょっと、待っててねぇ」
主人の次の行動を感じ取ったのか、猫は彼女の膝から飛び降りゆっくりとこちらに向かって来る。
「こいつと遊んでるんで、ゆっくりでいいですよ」
僕は膝に手をついて立ち上がろうとしている彼女に声をかけ、その場にしゃがみ込んだ。
いつの間にここまでやって来たのか、くすんだ白色の猫が僕の足に擦り寄る。
その頭をひと撫でして、首元をくすぐってやる。
こいつは今まで一度も見たことがないから、たぶん僕がここに来なかった間に住み着いたのだろう。
僕は猫の首元に手を這わせたまま、少し薄暗い店内を見回した。
店の壁に沿って置かれた沢山の薬棚には薬の入った瓶や包帯、消毒液などが規則正しく並べられ、時々湿布のような独特な臭いが鼻をつく。
あまりいい匂いだとは思わないが、ここは薬屋だから仕方がないし別段嫌な臭いと言うわけでもないので、今までさほど気にしたことはない。
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