第3章 【倉持洋一】Realize
その光景を見て想像するのは、彼女と亮さんが付き合っているんじゃないかってことだった。
彼女の隣に亮さんが居る理由なんてそれくらいしか思い付かない。
まぁ少しばかり意地の悪いところはあるが基本いい人だし、彼女が惚れるのも頷ける。
そういうことかと一人で勝手に納得していた。
けれどその片隅で、彼女の瞳が自分に向いていたら良かったのになんて考えていて慌てて頭を振った。
これじゃまるで俺が彼女に惚れてるみたいじゃないか。
熱を帯びていく顔を隠すように、汗を拭う。
自分の中にある曖昧な感情を確認する為なのか、俺の視線はスタンドへと向かっていた。
そこで見たのは、少し強張った表情の彼女。
気が付くと、俺の足は勝手に走り出していた。
「ちょっ!もっち先輩!?」
慌てたように俺を呼び止める沢村に「代わりに走っとけ」とだけ伝えて出口に向かう。
それでも後ろから聞こえて来る沢村の声は無視して、今日が監督の居ない日でよかったと息を吐いた。
俺が今言ってどうする、行って何を言う、そもそも俺の見間違いかもしれない。
スタンドまでの道を走っている間ずっと、そんなことを考えては消した。
睨み付けるようにして地面に落としていた視線を上げると、スタンドはもう目の前だった。
軽く息を吐いて徐々に足の動きを緩める俺の目に映ったのは、スタンドの階段を上って来る亮さんの姿。
亮さんの表情はいつもよりもいくらか柔らかく、彼女と一緒だったことがそうさせているのかと思うと訳もなく苛立つ。
それが、今まで認めようとしていなかった感情の証拠のように思えた。
階段を登り切った亮さんと、目が合う。
すると亮さんは俺が来るのがわかっていたとでも言うように、いつもの意地悪い笑みを浮かべた。
「っ、あいつと…「もたついてるなら、」
付き合ってるんですか?という言葉はすれ違い様に言われたそれにかき消された。
「俺がもらっちゃうよ?」
決して大きい声だった訳ではないのに、やけにはっきりと聞こえた言葉が意味していること。
それは、亮さんと彼女が付き合ってはいないということと、俺自身さっきやっと認めた感情が亮さんにはバレていたということ。
少しの安堵と、亮さんの勘の良さに対する恐怖を感じながら、俺はその言葉に小さく頷いた。
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