第2章 【兵頭×摂津】暑さのせい。
「…あ?何やってんだテメェ……」
いつの間に帰って来たのか、ぼーっと天井を眺めていた俺の視界にそいつが映り込んだ。
訝しげな表情で俺を見つめる兵頭に、いつもなら食ってかかる所だが今日はそんな気も起きない。
黙ったままの俺を気味悪がるかのように、眉間の皺を濃くする兵頭。
その手に食べかけのパプコとその片割れが握られているのを目にした俺は、無意識のうちに喉を鳴らしていた。
「っ、お前それ…」
オーソドックスなチョココーヒーとは違うピンク色をしたそれは、見た目だけでは何味か分からない。
しかし暑さに悲鳴を上げる俺の身体は、この際不味くてもいいからとそれを求めた。
俺の視線がどこに向いているか気付いたのだろう。
兵頭は自分の手元に目を向け、一人納得したような顔をする。
「欲しいのか?」
欲しいならやるぞって顔で俺を見下ろす兵頭を見て、ああ、こいつはこう言う奴だったと改めて思う。
こいつは俺から突っかかって行かない限り、あまり声を荒げない。
見た目があれだから勘違いされやすいだけで、本当は優し過ぎるくらいに優しい。
たぶん俺は、こいつの顔に似合わないそういう所に惹かれた。
「……いるって言ったらくれんのかよ」
いつもなら絶対に言わないような、少し捻くれた自分の言葉に顔の熱が増したのがわかる。
さっきまで頭にあった内容が内容なだけに、兵頭の目を見ていられない。
俺は素早く上体を起こし、自分の表情や感情を悟られないように目の前のそいつから顔を逸らした。
「お前、……熱でもあんのか?」
上から降って来た、心配しているというよりは馬鹿にしているような言葉に苛立つ。
「ハァ?ンなわけねぇだろ…」
暑さにやられているからか、声に覇気がないのが自分でもわかる。
マジで熱あんのかもと思うくらい、今日の俺はどこかおかしい。
兵頭が、溜息を吐いてその場にしゃがんだのが気配でわかった。
「ぶっ倒れんじゃねぇぞ」
頬に押し付けられた冷たいそれに肩が跳ねる。
「テメェなんかでも、居ねぇと稽古が進まねぇ…」
心配、してくれているのだろうか。
兵頭が今どんな顔をしているのか見たくて、無意識のうちに視線がそちらに向いていた。
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