第2章 【兵頭×摂津】暑さのせい。
ここ数日の茹だるような暑さに何もやる気が起きない。
それもこれも、全ては部屋のエアコンが壊れてしまったせいだ。
談話室に行けばいい話なのかもしれないが、動くこと自体が最早怠いと感じるのだから仕方ない。
「……あっちぃ」
窓の外で喚いている蝉が鬱陶しくて、思わず舌打ちが漏れる。
ひんやりしたフローリングに寝転がって、数日前から無言を貫いたままのエアコンを睨み付けた。
エアコンが壊れたことはその日のうちに監督ちゃんに伝えた。
しかし業者の方が忙しいのか、一向に快適な生活が戻って来る気配がない。
いつまでこの暑さに耐えなければならないのかと考えると、先が思いやられる。
首筋を伝う汗に不快感を感じながら、俺は何故かアイツのことを思い出していた。
三十分程前に財布を持って部屋を出て行った兵頭のことを。
時々唸るように暑さを訴えるアイツの声を聞く度、「んじゃ出ていけよ」と心の中で呟いていた。
本当は出て行って欲しくなんてないのに、心の中でも悪態しかつけない自分は何なんだろう。
そんなことを考えながら、アイツのいつもと違う姿ばかりが目に入った。
湿気のせいでいつもより纏まりのない髪も、少し色付いた肌を伝う汗も妙に煽情的で。
見ているこっちがおかしくなりそうだった。
つうか、こんなことを考えている時点で俺は既におかしいのかもしれない。
同じ劇団の、同じ組の所謂仲間ってやつ。
しかも男であるアイツをそういう目で見ている自分に、正直笑えてくる。
この異常な思考回路全て暑さのせいに出来たらどんなに楽だろうと、柄にもなく弱気になった。
これまでの人生、思い通りにならないことなんて一つもなかった。
そんな人生イージーモードをどっかの誰かさんに切り替えられて、演劇を始めて、俺の世界は変わった。
極め付きは同性を好きになるっつう、今までにないくらいの高難易度。
溜息しか出ねぇ状況のはずなのに、どこか今の俺とアイツの関係を気に入っている自分が居る。
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