第2章 【兵頭×摂津】暑さのせい。
俺を射抜くように見つめる真剣な瞳と冷たい言葉の端々に、兵頭のわかりにくい優しさを感じてしまって、また顔が熱を持つ。
「……おー」
喜んでいるのがバレないよう適当に返し、頬に押し付けられたままのパプコを受け取ったところで、俺は首を傾げた。
手の中にあるパプコが異様に軽いのだ。
まるで誰かの食べかけであるかのような軽さに、俺の頭はゆっくりと状況を理解していく。
そして自分の手元に視線を向けると、身体がびしりと固まった。
「っ、な……これ…」
自分の手の中にあるパプコが誰の食べかけかと言われると、兵頭しか有り得ないわけで。
つまりそれは兵頭と関節キ……
「ぁ?丸々1本はやらねぇぞ」
新しいパプコを咥えた兵頭に睨まれるが、別に量が少ないからどうこう言ってるんじゃない。
ただ俺が、兵頭をそういう意味で意識し過ぎているだけだってのはわかってる。
事実、目の前で幸せそうにパプコを食べている兵頭は1ミリも気にしていないようだ。
その姿に、悲しさを通り越して腹が立って来た。
「くっそ…!」
絶っ体ぇ俺のこと意識させてやる。
そんであいつに好きだって言わせてやる。
そう決意して、出来るだけ意識しないようにパプコの口を咥えた。
ドロッとしたアイスが流れ込んで来て、口の中に甘ったるい味が広がっていく。
温くなったそれは どうやらいちごミルク味のようで、こんな日に食べるもんじゃねぇなと思った。
それを旨そうに食う兵頭に目を向けると、どうしても視線が一箇所にいってしまう。
プラスチックの容器を咥えてその中身を吸い上げる唇は少し湿っていて、妙に艶かしい。
吸って、離して、舐めて、また吸い上げる。
その動きをじっと見つめていると、じわじわと身体の熱が一箇所に集まっていくのがわかった。
その時、不意に視線を上げた兵頭と目が合って心臓がどくりと脈打つ。
視線の意味には気付かれないと分かっていても、やはり焦るものは焦る。
「やんねぇぞ」と言ってパプコを握りしめ、俺を睨む兵頭。
そういう意味じゃないと心の中で言い訳をして、気付かれなかったことへの安堵と兵頭の鈍さに対する呆れから深く溜息を吐く。
冷静になった俺は、収まらない熱を感じながら全てを暑さのせいにして死んでしまいたいと思った。
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