第1章 【カラ松×一松】約束
あの後悪戯めいた笑みで近づいて来たクソ松は、俺の耳元でこれからのことを二、三文で説明した。
そして二人だけの秘密だとかなんとか言って俺の小指と自分の小指を絡めて笑った。
当時の俺は今の俺じゃ考えられないくらいの笑顔で頷いて、アイツとある約束をした。
「今帰ったぜブラザー」
急に開いた襖に驚いたのか、俺の胡座の上で大人しくしていた親友の身体が跳ねる。
襖に背を預けて部屋の中なのにグラサンを押し上げているクソ松は、どこからどう見ても痛い。
コイツは本当になんなんだろうか。
アイスを買って来いと蹴り飛ばし、玄関から放り出したのはほんの十数分前だったように思う。
帰ってくるの早すぎないか?
「……おせぇよ、クソ松」
とうの昔の、青臭い思い出に浸っているこのタイミングで帰ってくるとか間が悪いなんてもんじゃない。
「フッ……そう慌てるな」
襖を閉めて俺の隣までやって来たクソ松がその場に腰を下ろした。
コンビニの袋から取り出されたそれは俺の大好きなソーダ味のアイスバー。
何も言わなくてもコイツはこれを買って来る。
そう言えばあの日も、このアイスを食べながら家に帰ったんだと思い出して、何とも言えない恥ずかしさに襲われた。
「これが欲しかったんだろう?マイハニー」
それを知ってか知らずか少し照れ臭そうに俺のことを呼ぶクソ松に、顔がカッと熱くなる。
「てめ…、っぶち殺すぞクソが!!」
怒鳴りながら目の前に差し出されたアイスを奪い取ると、クソ松はさらに嬉しそうに笑った。
それを見ると、あの日約束したことが思い出されてさらに顔が熱くなったのがわかる。
俺はその熱をどうにかしたくて、アイスの袋を乱暴に破き水色のそれにかぶりついた。
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