第1章 【カラ松×一松】約束
事情を知らない奴が罵られて喜んでいるコイツを見たら、ただの変態か気持ち悪い奴だと思うだろう。
けれどこれは俺の精一杯の愛情表情であり、自分の気持ちがあの日からずっと変わっていないことを伝える為のものだ。
「家族や周りの人達にこの気持ちを知られて、困らせたくないのは俺も同じだ」
「だから、こうしよう一松」
「一松は俺が嫌いなフリをするんだ」
俺は今度の劇の役柄であるナルシストなキャラを日常生活でも演じることにする。
そんな俺を一松は嫌うようになったと言う筋書きだ。
だから俺を嫌いでいてくれる間は、一松は俺のことを好きでいてくれてるんだなと思うことにする。
もし俺が、ナルシストな俺をやめる時が来たら。
もし一松が、俺のことを嫌いな一松をやめる時が来たら。
それは、別に想う人が出来たという証。
そんな馬鹿げた約束を持ちかける目の前に居るコイツも、それに了承して今の今まで続けている俺も相当な馬鹿だ。
それこそおそ松兄さんを軽く超えられるくらいの大馬鹿者だろう。
けれどそんな馬鹿な兄のことが俺は堪らなく好きで。
そして、この馬鹿さ加減に救われたんだ。
俺の気持ちはダメなものじゃないと、コイツはそう言ってくれた。
世界中の誰にも認められなくても、目の前に居るコイツが認めてくれればそれでいいとさえ思った。
想い合っても結ばれない人達が居るこの世の中で、同じ家に住んでこうして少しの間だけでも隣に居られる俺達がどれだけ幸せか。
今の俺にはそれがわかるから。
だからこの幸せが出来るだけ長く、寧ろ死ぬまで続くように。
“松野家次男が大嫌いな松野一松”を最後まで演じ切ろう。
そんなことを考えながら、また大好きな水色のそれを口に運んだ。
**END**