第1章 【カラ松×一松】約束
一気に血の気が引いた気がして、僕は震える掌で頬に触れている兄さんの手を振り払った。
「っ、……離れろよ!」
目の前にある胸をありったけの力で押すと、少しよろけながら兄さんの身体が離れていく。
僕の突然の変わりように、兄さんが困惑しているのは嫌という程伝わってきた。
小さく僕の名前を呟いた兄さんは明らかに傷付いた表情をしていて、胸の奥がじくりと痛んだ。
増していくその痛み以上に兄さんは傷付いているのかもしれない。
けれどこうしないと、僕だけじゃなく兄さんまでもが奇異の目で見られることになる。
それだけならまだ、二人で堪えようと誓うことも出来た。
けれど僕にはカラ松兄さん以外にも大切な兄弟が居て、大好きな両親も居る。
その人達が悲しむことになるなんて、そんなの僕には堪えられない。
「っ、僕は……」
本心ではこんなこと思ってもいない。
嘘でもこんなことは言わない。言いたくない。
それでも言わなきゃいけないんだ。
苦しむのは僕達だけではないのだから。
「お前なんて大嫌いなんだよ!」
半ば叫ぶようにそう言った直後、視界が滲んでいくのがわかった。
泣いているのを見られたら嘘を吐いた意味がなくなってしまう。
それだけは避けないといけなかった。
「今すぐに、僕の前から消えろっ!!」
力いっぱい叫んでその勢いのまま視線を地面に落とす。
これなら兄さんから視線を逸らしたって不自然じゃないはずだ。
それに今の言葉だけは嘘じゃない。
冷静にそんなことを考えてはいるけれど、膝の上できつく握り締めた拳は震えていた。
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