第1章 【カラ松×一松】約束
兄さんはなんでこんなことをするんだろう。
僕の兄さんへの想いと、兄さんの僕に対する思いは全く別のものだと思っていた。
けれど、僕を抱きしめる腕があまりにも温かくて壊れものを扱うように優しく触れるから。
肩口に乗せられた額や時折首元にかかる兄さんの吐息に、僕は自分でも呆れるくらいに期待してしまっていた。
「すまない一松……、お前にそんな顔をさせるつもりはなかったんだ」
肩に乗っていた重みが消え、目の前に悲しげに微笑む兄さんの顔が現れる。
「あんな聞き方をせずに、俺から伝えていれば良かったな…」
頬に添えられたぬくもりとカラ松兄さんの真剣な表情。
その意味に気付けない程、僕は鈍くない。
「一松、……俺は」
まさかそんなことあるはずがないと、必死に否定する自分もいた。
散々期待して後から傷付くのが恐いからだ。
「お前のことが、」
本当は嬉しすぎて今にも泣きだしてしまいそうだったけれど、僕は強く唇を噛んで堪えていた。
こんな幸せなことはないと、叶うならこのまま死んでしまいたいと、本気でそう思った。
けれど僕は、彼が僕と同じ気持ちでいてくれたことに舞い上がってとても大切なことを忘れていたんだ。
僕と目の前にいる愛しい人との関係がどんなものであるかを。
熱の篭った瞳で僕を見つめる兄さんの後ろ。
僕は公園の入口の近くに人影があることに気付いてしまった。
知り合いではないのかもしれない。
けれどこんな、同じ顔の男が抱き合っている所なんて見られたらどうなるか。
僕達は世にも珍しい松野家の六つ子。
この街ではそこそこ顔が広い自覚だってある。
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