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虹に向かって

第3章 儚い記憶


「御意」

家来は大将にこの返事しか許されなかった。

一城の主でも、相手が
仕えている上皇であれば、


意見に反対することは死を意味していた。



「下克上」なんてもっての他。




そして、世は貴族が納める時代から
武士が納める時代への過渡期であった。







大将である和田千長は、眉間に深いしわを寄せた。

貴族を中心として政治をする上皇に仕えていたものの、



修養のある千長は分かっていた。





将来… それも気が遠くなる程の未来、


上皇を頂点とする世の中になるだろう。
その世に武士はいない。争いもない。天下太平だ。



ただ
今はいったん武士が中心の世の中になる。

貴族を中心とする、政治は腐敗しすぎた。





千長直轄の領地からでさえ、民から不満がこぼれていた。城に奉公に出す若い男性がいなければ、
農業だけでは暮らしは貧しかった。


まだ通貨などなく、農民は
相手の言い値で作物を手放さなければならず


一部のおちぶれた貴族が
身分を活かし作物を安く買いたたいた。




千長もそのことは、耳に入っていたが
売買をしていた貴族は


上皇の遠い親戚にあたり



唇を噛むしかなかった。



また千長自身も、財産を切り崩し

領地から奉公てきている
若者たちに褒美としてあたえていたため




一城の主といえども、その暮らしは
大変質素だった。






先日、上皇の屋敷にいった時のことを思い出した、






「千長、くるしゅうない。申せ。」



千長は恐れながら…と上皇に意見を述べた。





「なんじゃと‼敵をだまし打ちしろというか‼」



周りにいた、上皇の屋敷にいる
配下である貴族たちが、ざわめいた。



顔を真っ赤にした上皇がつづける。

「そちは、敵の後ろから不意をつけというが…」


ワナワナと体が震えている。





「正面から討ち果たせ‼それ以外は許さぬ‼」


周りの貴族たちも声をそろうた。



「無礼者‼」


「正面から行かぬ戦は戦ではない‼」



千長は心の中で息を吐く。



(いまや、正面から攻めいるのでは敵方の兵力に大幅に劣る。)



 
「上皇様…」

千長は何かさとったようだった。






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