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虹に向かって

第5章 本当の地獄


直三は、それからずっと家に入るようになった。


わざわざ家の中まで 
村人が直三を見にくることもなく、 


直三にとっては
唯一、地獄から逃れる方法であった。



ただ、直三は気づいていなかった。
千長の最後の合戦から逃げていた直三にとって

年老いた母親の家に、
  今でいうと「引きこもる」ことは


1回目の合戦からの逃げに加え、

2回目の大きな 「逃げ」であった。





以前は母親からの小遣いや城での奉公金で街に遊びにいったりもしていた直三であったが、


働きもしない直三に
母親が小遣いをくれるわけもなかった。





引きこもりだした時は、たまには
外に出たいと思っていたが、





次第に外になんて別にでたくない…と
どんどん、無気力になっていった。


楽しみはただ、口に食べ物をいれることだけだった。





直三の様に


一度 なにかから逃げだしてしまうと、
  
二度三度と今度は別の事からも逃げないといけなくなる。




逃げて逃げて…


最後には、どこへもいけなくなのだ。





…このままで、いいわけない。



なにか一つでも、逃げているものに
たちむかっていかないといけない事は


直三も内心分かっていた。





でも、怖かった。

武士として死ぬのも怖いし

、外にでて他人からバカにされ
蔑まれるのも、ひどく恐ろしい。




いくらでも時間はあったが、
直三はそんな逃げつづける自分と向き合うことはせず
むしろ目を背けた。





直三は、相変わらず家の中で
肘をついて寝そべっていた。



今日は母親が市場に買い物に出掛けたため
なにか目ぼしい土産をかってこないか、


母親の帰りをこころまちにしていた。



直三は近頃、
食べるためだけに生きているようであった。



そんな直三が母親にとっては、
悩みの種だった。
 
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