第2章 会いに行くから、お姉ちゃん。
今にも感嘆の声を上げそうなほどVBを見つめる桂の横顔を、じっと眺めてしまう神恵。
(…余程レトロゲームが好きなのだろうか…?)
パッケージの箱に穴があきそうなほど食い入るように見ている桂はいつもの堅物キャラは毛頭なく、本当に少年の如き真っ直ぐな眼差しであった。そのゲーム愛をどう受けとったのかは分からないが、神恵には1ゲーマーとしてなにか感じるものがあったようだった。
『店主さん、このバーチ〇ルボーイひとつ下さい。で、桂さん、良ければバーチ〇ルボーイのソフト好きなのカゴに詰めて持ってきて下さい。』
そういうと店主はまいどあり、とショーケースの鍵を開け始める。
桂は何事だ?と言いたげな顔で神恵を見返すがすぐに神恵は口を開く。
「助けていただいたのと、案内してくださったお礼です。ちょっと重すぎるかもしれないんですけど…。」
神恵が店のカゴを手渡すと桂はやっと理解が追いついたのかワタワタと焦り始めた。
「さすがにこれは貰えんぞ神恵殿!それに斯様なゲーム機くらい買えぬ俺では………あれ。」
羽織の袖の中を探る桂。右を探したあと左の袖を探り、また右に戻り押し黙ってしまう。
「……財布、置いてきちゃった。」
てへ、という顔をしながら言い放つ桂。元々奢る予定だった神恵だったがさすがに若干奢る気が失せた。
「……………まぁ私が買うことに変わりはないんで!バーチ〇ルボーイだけあってもどうしようもないですしほらソフト、3つまでなら買いますよ。」
「あれ?なんか減ってない?」
そうは言いながらも桂はノリノリでどのソフトにするか決めに行き、店主はVBを丁寧にレジに持っていくところだ。
その時、ジリッという電気音が店全体に響いた。その場にいた人間がみな音に反応する。
『なんの音だろう。』
その瞬間である。店が並ぶ電気街が次々にバチンバチンと明かりを失っていく。
奥まった路地の中の最奥に位置しているこの店は完全に真っ暗で全くもって周りが見えなくなった。
神恵は咄嗟に携帯のライト機能を付け、明かりを確保する。
「神恵殿!店主殿!無事か!」
ザワザワと街が騒ぎ出した。その中の声に桂の声が神恵の耳に届く。
どうやらアキバ全体が大規模な停電を起こしたらしい。