第3章 人生は思い通りには動かない
意を決して、階段を登り万事屋の前に来た神恵。桂はその後ろを着いていき、神恵を見守る。
神恵は、すうっと息を一度吸い覚悟を決める。勢いに任せてインターホンを押した。
無機質なチャイム音が鳴り響く。かぶき町は賑やかな筈なのに、この空間だけが怖いくらいに静まり返っていた。その静けさに心臓の鼓動が痛いほど鳴る神恵。何を言えばいいか、何を神楽に伝えればいいか、そんなことを考えると頭が堂々巡りになっていく。
店の中からは物音1つしないが、数秒してから静かに戸が空く。
そこには、心配そうな眼差しをしながら神恵を見上げる神楽の姿。
眉尻は下がり、今にも泣きそうな顔をしている。
そんな神楽を見た神恵は、言いたい言葉がありすぎて、何も出てこない。ただひたすら、久々に顔を合わせた妹の姿に、言葉にはし難い感動を感じていた。こちらも今にも泣きそうな顔になっていたのは言うまでもない。
数秒程の沈黙が流れる。2人にとってとても長く感じられる沈黙が続く。最初に口を開いたのは神恵であった。
「…………ごめん…。神楽…ごめんね……ごめん…ごめん…っ…」
どんどんと溢れてくる謝罪の言葉と共に、涙がこぼれる。神恵は柄にもなく、そのまま膝を着いて泣き崩れてしまった。
その騒ぎに中で待っていた銀時と新八も玄関にそそくさとやってくる。
状況を見た2人は、どうすることもできず、神楽の後ろから眺めるだけだった。
泣き崩れる神恵を何も言わずに見つめる神楽。
久々に見た姉の姿は、大人びており、何より今このように謝り、泣きじゃくる姿は、当時のような強かさを全く感じられず、別人のように見えた。
しかし、残る面影。その面影は随分と亡き母に近くなっており、神楽はほんの少しの懐かしさから、膝を着
く神恵の頭をそっと撫でた。
「………謝罪なら中で聞くネ。とりあえず入るヨロシ。ヅラも入れよナ。」
至って冷静な神楽に少しだけポカンと拍子抜けする一同。神恵は眉を寄せ、涙を拭って万事屋に黙って上がった。