第13章 旅行
マリアたちが出て行ってから少し経ったとき、子どもの悲鳴が響いた。
マリアが数個の顔を持つ巨大な屍番犬(ナベリウス)に追われ、主聖堂に子どもを抱きかかえ逃げてきた。
主聖堂に入ってすぐ、フールはとっさにマリアの頭を踏みつけた。
その勢いで二人は床に倒れこむ。
それとほぼ同時にフジモトが叫んだ。
「伏せてろっ」
バンッ!
いくら巨大な屍番犬でもフジモトまでは距離があったが、いとも簡単に屍番犬の顔の一つに命中させた。
屍番犬は後ろによろけた。
顔からは大量の血が噴き出しいる。
「グルルルルグォォオォオオォォォォ」
攻撃されて怒りを覚えた屍番犬は激しく咆哮した。
子どもを抱きしめて伏せているマリアたちを屍番犬は簡単に飛び越えフジモトに向かい襲い掛かる。
「きゃぁぁぁっぁあぁぁぁ!!!」
主聖堂に入ってきた屍番犬に村人たちが叫びだす。
辺りは混沌と化した。
しかしフジモトは平然とし襲ってきた屍番犬の腕をつかみ投げ飛ばす。
倒れた体に連続して銃弾を撃ち込んだ。
「グワァァァァア」
屍番犬は声を上げるとぐったりと動きが鈍くなった。
フジモトの戦いをマリアの横で見ているフール。
子どもは恐ろしさに身を固くさせ震えている。
子どもを抱きながら自身の腕にそっと触れるマリア。
フールはそんな些細な動きも見逃さなかった。
動きが鈍くなった屍番犬はなにか指示を受けたように急に動き出した。
弱々しく立ち上がりその動きとは逆にけたたましく咆哮し、主聖堂を駆け抜けステンドグラスを突き割り逃げて行った。
ガラスが飛び散り、主聖堂内の村人たちは物陰に隠れたり、腰を抜かす者、叫んでいる者もいる。
そんな状況とは全く反対に
「せっかくの美しい芸術が台無しだ。」
ヨハンは呑気な溜息をもらし呟いていた。
いまだ座り込んでいるマリアにフジモトが寄ってきた。
「怪我は??」声をかけた。
マリアの腕からは血が流れている。
フジモトは怪我を見て怪訝な表情を浮かべた。
フールは訴えるようにフジモトの顔を見つめるが、
思うことは一緒のようだ……。
「大丈夫よ」
………………
………
「そうか……」
少しの間を置き一言いうと次の行動を起こした。