第1章 帰って……きた?
「不謹慎かもしれませんけど……僕、主様とこうして会うことが出来て、とっても嬉しいんです」
俯きながら細々と呟くと、それをきっかけにして彼は徐々に言葉を漏らし始めた。
私は、静かに聞いていた。
「主様は、ここへ来たくて来たわけではないと思います。
それに、どうしたら元いたところへ帰れるのかなんて、主様……ましてや僕達も知りません。
主様はとても不安で、混乱しているようですし……」
確かにそうだなぁ、と相槌をうつ。
何故ここへ来てしまったのか、私には何も分からないし、これが本当に現実なのかさえ、未だ信じきれていないのだから。
「あまり、こういうことを今いうべきではないのかもしれません。でも」
彼の横顔を、可愛いなぁなんてぼうっと眺めていると、ふと視線が交差する。
その目は、今にも泣き出してしまいそうだった。
「僕、本当に……本当に、主様に会えて、嬉しいです」
「私だって、嬉しいよ」
今は物吉くんの言うとおり、不安はあるし、混乱している。
けれど、どこか嬉しさもある。
会いたいといつも願っていたから、それが叶って嬉しいんだと思う。
単純だけれど。
「だから、不謹慎じゃないよ」
物吉くんは、そうですねと言ってから特に何も話さなくなってしまったので、私も何も言わず、一緒に庭の桜を見ていた。
はらはらと散る夜桜は実に美しいけれど、この本丸にはいつもこの桜が果てることなく咲いているのだと思うと、なんだか少し寂しくなった。