第1章 帰って……きた?
部屋で休めという長谷部の勧めで、私は本丸内を歩いていた。
そういや私の部屋ってどこなんだろう?とふとこの本丸の知識が全くないことを思い出し、途方に暮れてしまった。
手頃な場所で庭に向かって廊下で足を放り投げ座り、ため息をつく。
急なことばかりで混乱してしまう。
どうやらここは本当に刀剣乱舞の世界のようだし、私の本丸であるらしい。
だって、皆私のことを知っているから。
私が誰をよくなんの内番に回すのか、編成はこうだとか、刀装作りはこの刀剣がするとか。
私のルールを、ここの刀剣はみんなみんな知っている。
面白いくらいに、私がそのとき何を求めているのか分かっている。
確かな実感はまだ湧かないけれど、ここは私の本丸なんだ。
「主様、風邪をひいてしまいますよ」
そっと膝にかけられた緑色のタオルケットは、ふんわり桜の香りがした。
白く伸びた手がそれを私にかけてくれたようだ。
「物吉くん」
細くて優しい、彼はまろやかな笑顔を見せた。
「主様の声、初めて聞きましたね」
そうだね、と私もつられて笑うと、物吉くんは自然に私の隣へ腰掛けた。
大きめのタオルケットだったので、さり気なく彼の膝にもかけてやる。
彼は少し目を見開いたけれど、ありがとうございます!と嬉しそうにタオルケットを握りしめていた。