第1章 王子、恋を知る。
「ねえ、起きてる?」
先の見えない、暗い通路の続く地下牢に問いかけると、起きてまぁす。と間延びした声が響く。
「捕虜ですか」
「いや。違うよ」
ますます分からないという顔をする臣下と、未だ戸惑いを隠せないマークス兄さんを置いて奥へと歩いた。
扉を開くと、少女は眩しそうに顔を覆った。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは」
「何をしに来たの?」
「君をここから出してあげる」
「死ぬの?それならせめて、マークスさんとか、レオンさんとか、素敵な人に殺されたいなぁ……」
「殺さないよ」
「……殺さないの?」
「君は今日から僕のメイドになるんだ。さあ早く。兄さんを待たせてる」
顔を覆っていた手を下げて、ぽかんとしている少女。
そんな様子にどうしても庇護欲がそそられる。
「お待ちください、レオン様。この少女は何者です?」
張り詰めた声で僕に問いかけたのは、ゼロ。
ゼロが彼女を不審がることはあらかじめ予想できていた。
けれど彼は僕の臣下であるため、なんと言おうが拒否権はないのだ。
「何者かは、これから知ればいい。今はそんなことどうでもいいんだ」