第1章 王子、恋を知る。
ドライヤーを終えた私は、手際の良いカミラにすらすらと身を整えられていた。
「あの子は紫色が好きだから……これかしら」
ごそごそと棚を漁っていたカミラが戻ってきた。
その手に持たれていたのは、淡藤色をしたチューブトップのドレス。
中世や大正を思わせる腰から下の膨らみはなく、すっとしたシルエットのアンクル丈だ。
「わぁ!きれい……」
「ふふ。あなた、可愛らしいから……きっと似合うわ。
さあ、服を脱いで。インナーを着なきゃ」
なんの不自由もなく着せられたドレスは、お腹の締め付けも苦しくなく、ぴったり。
髪にはこれを、とまたカミラが何かを手にして戻ってくる。
いちごのクリームのような、可愛らしいピンク色のドライフラワーが付いた髪飾りだ。
何連か連なる白いパールが付けられているそれをいたく気に入ったらしいカミラは、とてもご機嫌に私の髪へ付けた。
「あらあら……!見て」
飾りを付けた途端に顔を輝かせた彼女が、姿見の前まで私を連れていく。
「すごい!」
そこに立っているのはまるで私ではないような気さえしてしまうほど、キレイな人だった。
自分でするよりよっぽど丁寧な化粧が、紫色により引き立っている。
とてもセクシーだ……
「さあ、早く見せてあげましょう」
そうして私は、恥ずかしさと戸惑いを抱えたまま扉を開いた。
ゼロside……
レオン様がメイドにすると仰った、身元も何もかも不明な少女……まあ、オーディンのことは置いておくとして。
彼女は、気がつけば扉の向こうで風呂に入っているという。
どうして俺が女性の風呂を待たねばならんのだ。
レオン様がどうしても待つと仰るので、俺もオーディンもここから動くわけにはいかないのだが。
それよりも、女性というより少女と言うに相応しい彼女が、果たして立派にメイドの任をこなすことが出来るのか……
そして、どうしたら彼女の身を明かすことが出来るだろうか……
俺は待っている間、そんなことばかりを考えていた。